移民政策を過去に行ったヨーロッパと日本の比較、現状を考えられる最悪のシナリオを考えてみた

話題

第1章:序章 ― 日本の外国人受け入れ現状と見えていないリスク

ここ10年ほどで、日本における外国人の存在感は一気に増しました。観光地に行けば外国語の看板が目立ち、飲食店やコンビニでも外国人スタッフが働いている光景は珍しくなくなりました。政府も「観光立国」を掲げ、2030年には訪日外国人6000万人を目指すと公言しています

さらに深刻な人手不足を背景に、労働力としての外国人受け入れも加速しています。

  • 2019年に創設された「特定技能」制度
  • 技能実習から移行する「育成就労制度」(2024年に成立、2027年施行予定)
  • そして特定技能2号の対象分野拡大(家族帯同可能、在留更新上限なし)

これらは一見「労働力対策」に見えますが、実態としては日本に長期的に住む外国人を増やすための制度です。

ところが、その一方で「もし外国人が重大な犯罪を犯した場合どうなるのか?」という議論は、十分に行われていません。

日本人であれば当然「日本の法律で裁かれる」のに対し、外国人は「自国へ帰国すれば日本で裁けない可能性」が現実に存在します。

現状、日本が犯罪人引渡し条約を結んでいるのは アメリカと韓国の2か国のみ。

主要な外国人労働者の送出国である中国、ベトナム、フィリピン、ブラジルなどとは条約がなく、外国人が犯罪を犯して帰国した場合、日本の司法が及ばないリスクがあります。

経済界の強い要望で「人を入れる」政策ばかり先行し、司法や治安の安全網は後回し――。

これがいまの日本の立ち位置です。

第2章:ヨーロッパの移民政策の歴史 ― 「人を入れてから考える」の連鎖

「移民政策の遅れ」がどんな結末を招くかを理解するためには、ヨーロッパの戦後史を振り返るのが参考になります。

ドイツ ― ガストアルバイター(客員労働者)の受け入れ

1950年代、戦後復興と経済成長(いわゆる“経済の奇跡”)を背景に、西ドイツは深刻な人手不足に直面しました。そこで1955年から「ガストアルバイター(客員労働者)」制度を開始し、イタリア、スペイン、ギリシャ、そして1961年にはトルコとも労働協定を結び、大量の労働者を受け入れました。

当初の想定は「数年働いて祖国に帰る」一時的な労働力。しかし現実には、産業界が外国人労働者に依存し始め、労働者もドイツに定住し家族を呼び寄せるケースが増えました。結果として、「一時的」なはずの制度が「事実上の移民政策」へと変貌しました。

フランス ― 旧植民地からの移民

フランスでは1950〜70年代にかけて、アルジェリアやモロッコといった旧植民地からの移民が大量に流入しました。これも経済成長期の労働力不足を背景に進められましたが、定住化が進んだ結果、郊外(バンリュー)に移民コミュニティが形成され、教育格差や失業問題、警察との摩擦が社会不安の温床となりました。2005年にはパリ郊外で移民二世の若者たちが暴動を起こし、国内外に衝撃を与えました。

イギリス ― コモンウェルスからの移民

イギリスは旧植民地との歴史的関係から、カリブ諸国、インド、パキスタン、バングラデシュなどからの移民を受け入れました。ロンドンには多文化都市の姿が広がりましたが、その一方で差別や治安問題も顕在化。1970年代以降、移民政策をめぐって社会が分断され、極右政党の台頭にもつながりました。

共通する流れ

  1. 経済優先で大量受け入れ(「一時的」なはずが定住化)
  2. 統合政策の遅れ(言語教育、住宅政策、治安対策が後追い)
  3. 社会不安・治安悪化(若年失業、暴動、犯罪率上昇)
  4. 司法協力の強化(欧州逮捕状、ユーロジャスト、ユーロポール)

ヨーロッパは「先に人を入れて、後で問題が噴き出し、慌てて対策を打つ」というパターンを繰り返しました。

第3章:日本の“建前と実態” ― 移民政策ではないと言い張りながら

日本政府は「日本は移民国家ではない」と繰り返しています。確かに「移民法」という名前の法律は存在しません。

しかし実態を見れば、ヨーロッパがたどった道をそっくりなぞっているように見えます。

技能実習制度

1990年代から続く技能実習制度は、「国際貢献」という名目で始まりましたが、実態は安価な労働力供給制度でした。建設・介護・農業など人手不足分野を支える一方、労働環境の劣悪さや人権侵害が国際的にも批判されています。

特定技能制度(2019年)

2019年には「特定技能」制度が創設され、より幅広い分野で外国人労働者を受け入れる枠が拡大しました。特定技能1号は在留期限付きですが、2号は更新無制限で家族帯同も可能。つまり、事実上の定住への道が開かれたのです。

育成就労制度(2024年成立、2027年施行予定)

技能実習制度を廃止し、新たに「育成就労制度」を創設する法案が2024年に成立しました。建前は「人材育成」ですが、実態はやはり人手不足対策。特定技能への移行を前提にしており、「一時滞在」から「定住」への流れを制度として固める内容になっています。

司法協力は置き去り

ここまで受け入れは進んできましたが、外国人犯罪に対応する司法協力は大きく遅れています。

  • 犯罪人引渡し条約:米国・韓国の2か国のみ
  • 中国、ベトナム、フィリピン、ブラジルなど主要な送出国とは未締結
  • 逃亡すれば「日本で裁けない」リスクが現実に存在

ヨーロッパは移民問題が深刻化した後に「欧州逮捕状」や「ユーロジャスト」で司法協力を厚くしましたが、日本はまだその入口にも立っていません。

第3章までのまとめ

  • 日本は「移民国家ではない」と言いつつ、実質的に定住化を進めている。
  • ヨーロッパはすでに経験済みの「統合後回し、治安悪化」をなぞる可能性が高い。
  • 最大の問題は「司法協力の穴」。受け入れは進むのに、逃亡や国外犯への対応が手薄なまま。

第4章:国別比較 ― 日本で犯罪を犯した外国人の扱い

日本の刑法は「国内で罪を犯した者」に適用されるため、原則として日本人も外国人も同じ罪で裁かれます。

しかし問題は「帰国してしまった場合」。国ごとに対応が異なり、被害者遺族の納得度は大きく変わります。

韓国 🇰🇷

  • 日本と犯罪人引渡し条約あり(2002年発効)。
  • 韓国に逃亡した場合でも、日本に送還される可能性が高い。
  • 実際に強盗殺人事件の犯人が韓国から日本に引渡され、日本の裁判を受けた事例もある。

中国 🇨🇳

  • 日本と条約なし。
  • 中国は「自国民は自国で裁く」方針を徹底している。
  • 日本の警察が国際手配をしても、中国国内で裁判が開かれるため、日本の被害者遺族は「なぜ日本で裁けないのか」という不満を持つ。

ブラジル 🇧🇷

  • 日本と条約なし。
  • 憲法で「自国民は外国に引渡さない」と規定。
  • 必ずブラジル国内で裁かれる。
  • 実際に日系ブラジル人が日本で殺人を犯して帰国し、ブラジルで懲役31年の判決を受けたケースがある。日本なら死刑や無期懲役だった可能性が高い事件。

ナイジェリア 🇳🇬

  • 日本と条約なし。
  • ナイジェリア刑法には国外犯を裁ける規定があるが、実務では審理が遅れたり、軽刑になったりする懸念がある。
  • 麻薬事件で帰国したナイジェリア人が、実質的に軽い処罰しか受けなかった事例もある。

アメリカ 🇺🇸

  • 日本と条約あり(2003年発効)。
  • アメリカ国内に逃げても、日本に引渡される可能性がある。
  • ただし「死刑になる事件」ではアメリカ側の裁判所が慎重になるケースが多い。

第5章:各国の「殺人罪の最高刑」比較表

最高刑コメント
🇯🇵 日本死刑・無期懲役絞首刑。適用例あり。
🇰🇷 韓国死刑制度ありだが1997年以降執行なし。
🇨🇳 中国死刑世界最多クラスの執行数。銃殺・注射。
🇧🇷 ブラジル30年懲役憲法で死刑禁止。最長30年で刑が終わる。
🇳🇬 ナイジェリア死刑または無期懲役州によってイスラム法を併用。
🇺🇸 アメリカ死刑または無期州によって死刑の有無が異なる。
🇫🇷 フランス無期懲役1981年に死刑廃止。
🇩🇪 ドイツ無期懲役1949年に死刑廃止。

👉 日本なら死刑になる事件が、ブラジルでは最長30年で出所する可能性がある。

第6章:具体的な事例

中国人窃盗団事件

2000年代、日本各地で大規模窃盗を繰り返した中国人グループが帰国。

日本は国際手配をしたが、中国は「自国で裁く」として引渡さず。

最終的に中国国内で裁判が行われ、有罪判決が下された。

日系ブラジル人殺人事件

日本で殺人を犯したブラジル人が帰国。

ブラジル憲法により日本への引渡しは拒否。

ブラジル国内で懲役31年の判決。

日本の遺族からは「軽すぎる」との声が強かった。

韓国人強盗殺人事件

日本で強盗殺人を犯した韓国人が帰国。

条約に基づき日本へ引渡され、日本の裁判で有罪判決。

第7章:ヨーロッパの歴史と日本の比較

ヨーロッパの流れ

  • 1950年代〜:経済成長で労働者不足 → 大量受け入れ(ガストアルバイター、旧植民地移民)
  • 1970〜80年代:定住化が進むが、統合政策は後回し。
  • 1990〜2000年代:治安悪化や暴動(例:2005年パリ郊外暴動)。
  • 2004年:欧州逮捕状(EAW)導入、司法協力を本格化。

日本の現状

  • 2019年:特定技能創設(労働力受け入れ開始)。
  • 2023年:特定技能2号拡大(定住ルート化)。
  • 2024年:育成就労制度成立(2027年施行予定)。
  • 引渡し条約は米韓2本のみ。

👉 日本はいま「ヨーロッパで言えば1980年代〜90年代」に相当。

つまり「受け入れは進むが、司法協力・治安対策は遅れている」状態。

第8章:日本の国会での議論

参議院請願(ブラジルとの条約)

  • 「逃亡犯が国外へ行けば司法が及ばず、逃げ得になる」として、ブラジルとの引渡し条約を求める請願が提出された。
  • 当時、ブラジル人逃亡犯86人が日本でもブラジルでも処罰されていない状態だった。

国家公安委員会での議論

  • 議員:「刑事共助条約と引渡し条約は連動しているのか?」
  • 官房長:「引渡し条約は米国・韓国のみ。他国とは交渉中」

外務委員会

  • 日韓引渡し条約承認の際、政府は「積極的に進める」と答弁。
  • しかしその後、進展はほとんどなし。

👉 懸念の声は国会にあるが、実際の制度整備は進まない。

第9章:なぜ日本は遅れているのか?

  1. 移民政策タブー
    「日本は移民国家ではない」という建前を守るため、制度を小出しに。大改革を避ける。
  2. 短期的経済優先
    経済界の「人手不足をすぐ解決せよ」という圧力を優先。司法整備は票にならず後回し。
  3. 外交難易度
    ブラジルは憲法で引渡し禁止、中国は「自国で裁く」原則。交渉そのものが困難。
  4. 社会的議論不足
    「治安リスクを語ると排外的」と批判されやすく、冷静な議論が深まらない。

第10章:最悪のシナリオと結論

  • 外国人が日本で殺人を犯す。
  • 母国に逃げ帰り、日本で裁けない。
  • 自国で軽刑、あるいは不起訴。
  • 遺族は「日本の司法は何をしているのか」と絶望。

ヨーロッパはすでに「経済優先 → 治安悪化 → 司法協力強化」という道を歩みました。

日本はいま、同じ轍を踏んでいます。しかもヨーロッパよりも遅いスピードで。

 結論:

日本は「外国人を入れること」にばかり目を向け、「治安を守る仕組み」を整えるのを後回しにしている。

このままでは、国民の安全より経済界の利益を優先する国になりかねません。

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