― 税金が高いのではない。構造が壊れている ―
「日本は税金が高すぎる」
「真面目に働くほど損をする国だ」
こうした言葉は、今や特別な主張ではない。
職場でも、SNSでも、家庭でも、
確かに、現役世代の手取りは増えにくい。
昇給しても、責任と拘束時間が増えるばかりで、
将来に目を向ければ、年金・医療・介護への不安は消えず、
では、日本は本当に「異常な高税国家」なのだろうか。
結論から言えば、それは正確ではない。
問題の本質は、税金の額そのものではなく、
現役世代から集めた負担が、どこへ流れ、
という「構造」にある。
税金が高いのではない。「戻ってこない」のである
まず冷静に確認しておきたい。
日本は、世界的に見て税率が極端に高い国ではない。
OECD諸国と比較すると、日本の税・
北欧諸国やフランス、ドイツのような高福祉国家より明確に低く、
「税率だけ」を見れば、むしろ抑えめと言ってよい。
それでも現役世代が強い不満を抱くのは、なぜか。
理由は単純だ。
負担のわりに、実感できるリターンが極端に少ないからである。
日本の現役世代は、
- 給与から税金と社会保険料が自動的に引かれ
- 日々の生活費や将来への備えは自己責任
- それでも制度への信頼は揺らいでいる
という状態に置かれている。
これは「取られすぎ」なのではない。
**「取られた先が、現役世代に返ってこない設計」**なのだ。
問題の中心は「社会保険料」にある
日本の負担構造を理解する上で、
年金、医療、介護。
これらは社会に不可欠な制度であり、
しかし、日本の社会保険料には、
- ほぼ強制である
- 所得が低くても負担感が重い
- 若いうちほど「払うだけ」で使えない
- 将来自分に返ってくる保証が見えにくい
特に重要なのは、
現役世代が支払った保険料は、
将来の自分のために積み立てられるのではなく、
今の高齢世代の年金・医療・介護に充てられている。
この構造のもとでは、若い世代ほど、
「自分は支える側で終わるのではないか」
という不安を抱きやすくなる。
なぜ現役世代への支援は後回しになるのか
では、なぜ現役世代向けの支援は弱いままなのか。
理由は、制度の優先順位にある。
日本の社会保障支出の大部分は、
- 高齢者年金
- 高齢者医療
- 介護
に集中している。
一方で、現役世代が「今」必要とする分野――
- 教育費の軽減
- 子育て支援
- 住宅支援
- 失業や再挑戦のセーフティネット
これらは後回しにされてきた。
これは冷酷な意思決定ではなく、
人口構造と選挙構造の結果である。
若者が投票しても、すぐに変わらない理由
近年、若者の投票率は確実に上がっている。
実際に落選する議員も出始めた。
それでも、制度の根幹が大きく動かない理由は明確だ。
政治は、理屈ではなく数で動く。
- 高齢世代は人口が多い
- 投票率も高い
- 支持する争点が明確
一方、現役世代は、
- 人口が少ない
- 投票先が分散しやすい
- 争点が多岐にわたる
この差が、政治の意思決定に如実に反映されている。
結果として、
現役世代の不満は理解されるが、
優先順位は上がらない
という状態が続いている。
「分かっていない」のではない。「分かっていて続けている」
重要な点がある。
政府や官僚が、この問題を理解していないわけではない。
むしろ、よく分かっている。
- 高齢者給付を削れば選挙で負ける
- 現役世代の負担を下げれば財源が足りない
- 急激な改革は社会不安を招く
どの選択肢も痛みを伴う以上、
現実に選ばれているのは、
現役世代に少しずつ負担を上乗せしながら、時間を稼ぐ
という延命策である。
これは正義ではない。
だが短期的には「最悪を避ける」判断でもある。
なぜ現役世代は「怒り」より「疲労」を感じるのか
日本の現役世代が感じている感情は、
怒りよりも、むしろ疲労に近い。
それは、
- 頑張っても報われにくい
- ルールは変わらない
- しかし逃げ場もない
という状態が続いているからだ。
人は、不公平よりも
**「希望が見えない状態」**に最も消耗する。
それでも「若者の努力不足」ではない
この構造を理解すると、
「結婚しない」「子どもを持たない」「リスクを取らない」
といった選択を、安易に責めることはできなくなる。
それらは怠惰ではない。
合理的な自己防衛である。
問題は個人の姿勢ではなく、
努力と結果が結びつきにくい制度設計にある。
第1回の結論
日本は、高税国家だから苦しいのではない。
現役世代が報われにくい構造を、長年積み重ねてきた結果として、
- 負担は現役に集中し
- リターンは高齢世代に偏り
- 将来の見通しは不透明
この構造を理解することが、
感情論でも諦めでもない、現実的な第一歩になる。
次回は、
海外と比べることで、この日本の立ち位置がどれほど特殊なのか
を、数字と制度の違いから明らかにしていく。
▶ 次回予告【第2回】
「税率は中位、満足度は下位」
海外比較で見えた、日本の“最も不満が溜まりやすい位置”。




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