2026年1月.日本は静かだが決定的な一歩を踏み出そうとしている。
東京からおよそ2,000キロ離れた太平洋上、日本の最東端に位置する南鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)に向けて、日本産レアアースの探査船が出港する。
この航海は単なる海洋調査ではない。
それは、日本が長年抱えてきた資源小国という制約、そして中国への構造的依存から脱却できるかを試す、国家戦略級の挑戦である。
1. レアアースとは何か――なぜ世界は奪い合うのか
レアアース(希土類元素)は、周期表の中でも特殊な性質を持つ17元素の総称である。
それ自体は決して「希少」ではないが、採掘・精錬が極めて難しいため、戦略的価値が高い。
レアアースは以下の分野で不可欠だ。
電気自動車(EV)用高性能モーター
風力・太陽光発電設備
半導体・AI関連装置
スマートフォン・通信機器
ミサイル誘導、レーダー、防衛装備
つまり、脱炭素社会・デジタル社会・安全保障のすべてを支える中核資源なのである。
2. 中国が握るレアアース支配構造
現在、レアアース市場の最大の問題は供給の偏在だ。
採掘量:世界シェア約6割
精錬能力:世界シェア約7〜9割
これを中国が握っている。
2010年、中国は尖閣諸島問題を契機に、日本向けレアアース輸出を事実上制限した。
この出来事は、日本の製造業と政府に強烈な衝撃を与え、「資源=外交カード」という現実を突きつけた。
以降、日本は調達先多角化やリサイクル技術開発を進めてきたが、完全な脱中国依存には至っていない。
3. 南鳥島という「戦略的拠点」
南鳥島は、東京都に属する無人島であり、一般人の立ち入りは禁止されている。
しかし、その存在意義は極めて大きい。
この島があることで、日本は広大なEEZを保持し、
海底資源
海洋調査
漁業権
を国際法上、正当に主張できる。
2018年、海洋研究開発機構(JAMSTEC)などの調査により、南鳥島周辺の海底に**高濃度のレアアースを含む「レアアース泥」**が存在することが確認された。
4. レアアース泥の特異性
南鳥島周辺のレアアース泥は、従来の陸上鉱山とは本質的に異なる。
特定元素(ネオジム等)の高濃度
放射性物質が比較的少ない
日本のEEZ内で合法的に採掘可能
理論上、国内需要を数百年分賄える可能性
これは、日本が初めて手にする自前の戦略鉱物資源になり得る。
5. 深海6,000メートルという壁
最大の難関は技術だ。
水深6,000mの高水圧
極低温・完全暗黒
海底地形の不安定さ
これまでの深海調査は、あくまで「点」の採取に過ぎなかった。
今回の計画は、レアアース泥を連続的に回収する世界初の試みである。
この技術が確立されれば、日本は
深海資源開発
海洋ロボティクス
次世代鉱業技術
において、世界の先頭に立つ。
6. 中国空母「遼寧」が示す地政学的緊張
内閣府プログラムディレクター石井正一氏は、中国空母「遼寧」が南鳥島EEZ付近に接近した事実を明かしている。
これは偶然ではない。
中国は、
南シナ海での人工島建設
台湾海峡での軍事圧力
資源と軍事を結びつけた戦略
を一貫して進めてきた。
南鳥島でのレアアース開発は、中国の資源戦略に対する明確なカウンターであり、グレーゾーンでの牽制行動が発生するのは自然な流れだ。
7. 日本にとっての経済安全保障
レアアース自給は、日本の経済安全保障に直結する。
供給途絶リスクの低減
防衛装備の安定確保
先端産業の競争力維持
これは「経済政策」であると同時に、「安全保障政策」でもある。
8. 国際社会における日本の立ち位置
もし日本が深海レアアース開発に成功すれば、
米国・EU・豪州との戦略連携強化
中国一極支配構造の是正
国際資源市場での発言力向上
が期待される。
日本は単なる消費国から、供給国・技術国へと立場を変える可能性がある。
9. 環境問題という避けられない課題
一方で、深海開発は環境問題と不可分である。
深海生態系への影響
国際的な環境NGOの反発
国際ルール整備の遅れ
持続可能性を無視した開発は、国際的支持を失う。
日本には、科学的根拠と透明性を備えたモデルケースを示す責任がある。
10. 「希望の光」としての南鳥島プロジェクト
この探査船は、日本の未来を占う象徴である。
技術立国としての底力
海洋国家としての主権
次世代への戦略的遺産
南鳥島の深海に眠るレアアースは、日本に問いかけている。
「自らの力で未来を切り拓けるのか」と。
結論:静かな出港、しかし歴史的瞬間
2026年1月11日、探査船は静かに出港する。
だがその意味は、決して静かではない。
それは、日本が再び資源・技術・主権を自らの手に取り戻そうとする、歴史的瞬間なのである。




コメント