2027年4月から、日本の外国人雇用制度が大きく変わります。これまで長く使われてきた技能実習制度に代わって「育成就労制度」が始まり、ホテル・旅館などの宿泊業でも、外国人を原則3年間かけて育成し、その後は特定技能1号へ進んでもらうという流れが本格化します。2026年10月には宿泊分野の具体的な運用ルールも示され、フロント、接客、レストランサービス、企画・広報など、ホテルや旅館の幅広い業務で外国人材を育てていく方向が見えてきました。しかし、ここで素朴な疑問が出てきます。「外国人を海外から採用して、日本語を教え、ホテルの仕事を教え、住居を用意し、監理支援費なども払うくらいなら、日本人スタッフの給料を上げたり、日本人に英語や中国語を教えたりした方がいいのではないか?」という疑問です。これは非常に重要な視点です。育成就労制度は「外国人を安く雇う制度」ではありません。むしろ、外国人を採用した場合、日本人を採用するよりも追加費用がかかる可能性があります。それでも企業が利用するのはなぜなのか。今回は、外国人雇用のメリットだけではなく、企業が負担する費用、日本人の賃上げとの比較、外国語教育との比較、AIや自動化との比較、地方ホテル・旅館の人手不足問題まで含めて、初心者でも分かるように詳しく考えていきます。
まず結論|企業側の最大のメリットは「安く雇えること」ではなく「人を確保できること」
育成就労制度を企業側から見たとき、一番大きなメリットは「外国人だから安く雇える」ことではありません。最大のメリットは、日本人を募集しても必要人数を確保できない会社が、採用対象を海外まで広げられることです。特に地方のホテルや旅館では、フロント、レストラン、客室清掃、調理補助などの求人を出しても、日本人の応募が集まりにくいケースがあります。例えば、100室あるホテルなのに人手不足で70室しか販売できない、レストランの人員が足りず夕食営業を縮小している、清掃スタッフ不足で連泊客室しか受け入れられない、といったケースです。この場合、外国人材を採用できれば、人件費そのものは増えても、販売できる客室数が増え、結果として売上が伸びる可能性があります。つまり企業側が見るべきなのは、「日本人より外国人の方が人件費が安いか」ではなく、「人がいないことでどれだけ売上を失っているのか」という点です。
例えば、1室1万5,000円のホテルで、人手不足によって毎日10室販売できていないとします。単純計算で1日15万円、30日なら450万円、年間なら5,000万円を超える販売機会を失っていることになります。もちろん実際には稼働率や原価がありますが、人が足りないことで売上そのものを作れない状態なら、外国人を採用して教育費や監理支援費がかかったとしても、十分に採算が合う可能性があります。逆に、すでに日本人スタッフが十分に確保できているホテルであれば、わざわざ外国人を採用し、日本語教育や生活支援まで行う必要性は低くなります。つまり育成就労は、すべての企業にとって得になる制度ではなく、人手不足の深刻さによって価値が大きく変わる制度です。
育成就労外国人は「安い人材」ではない
育成就労制度を理解するうえで、最も重要なのがこの点です。外国人だから日本人より安い賃金で働かせてよいという制度ではありません。外国人労働者にも、日本の労働関係法令が適用されます。同じ仕事内容であれば、日本人と比べて不当に低い賃金で雇用することは認められません。つまり企業が「日本人なら月給25万円必要だけど、外国人なら15万円で働いてくれる」と考えているなら、その発想自体が育成就労制度の趣旨と合っていません。
さらに外国人を採用すると、給与以外にも追加費用が発生します。日本人を地元で採用した場合にはかからなかった費用が、外国人雇用では必要になることがあります。そのため総コストで見れば、外国人の方が高くなる可能性もあります。ここを理解すると、「外国人を雇う理由は人件費削減ではなく、人材確保なのだ」ということが見えてきます。
外国人を一人採用すると、給与以外に何がかかるのか
企業が育成就労外国人を雇う場合、まず当然ながら給与が必要です。さらに残業代、社会保険の会社負担分、雇用保険、労災保険なども必要になります。ここまでは日本人雇用と基本的に同じです。しかし外国人の場合、これに加えて採用手続き、監理支援、日本語教育、技能教育、生活支援、住居の確保、各種行政手続きなどの費用が加わる可能性があります。
特に監理型育成就労では、監理支援機関が重要な役割を担います。外国人が適切に働いているか、企業が法律を守っているか、本人が困っていないかなどを確認し、相談対応や監理を行います。そのため企業は監理支援費を負担します。この費用を外国人本人へ押し付けることはできません。企業側から見ると、外国人1人を雇用するたびに、給与以外の固定費が発生する可能性があるわけです。
また、外国人が日本で生活するための支援も必要になります。例えば、寮の確保、生活ルールの説明、市役所での手続き、銀行口座の開設、携帯電話の契約、交通機関の利用方法、ゴミ出し、病院の利用方法などです。こうした支援には、会社の担当者の時間もかかります。表面上のお金だけでなく、社内の人件費も追加コストになります。
住居費は企業がすべて払うのか
外国人を雇うからといって、家賃を必ず企業が全額負担しなければならないわけではありません。ただし、適切な住居を確保できるよう企業側が支援する必要があります。会社寮を用意し、家賃の一部を本人に負担してもらう形も考えられます。企業によっては、寮費を低く設定したり、光熱費だけ本人負担にしたりする場合もあるでしょう。ただし、本人の同意なく不合理な費用を給与から差し引いたり、相場より極端に高い寮費を請求したりすることは問題になります。
地方の旅館などでは、そもそも社員寮を持っている場合もあります。この場合は住居確保の負担を抑えられます。一方、都市部のホテルで新たに外国人のために賃貸住宅を契約する場合は、敷金、礼金、仲介手数料、家具・家電など初期費用が大きくなる可能性があります。つまり、同じ外国人採用でも、企業の立地や既存設備によってコストはかなり変わります。
日本語教育も企業コストになる
ホテルや旅館では、日本語能力が非常に重要です。食品工場や製造業でも日本語は必要ですが、宿泊業はお客様と直接会話する機会が多いため、より高いコミュニケーション力が求められます。外国人本人が日本語試験に合格していても、実際の接客で使えるとは限りません。
例えば、「チェックインは15時からです」「朝食は7時からです」といった定型文は覚えられても、「エアコンが動かない」「近くの病院を教えてほしい」「電車が止まっているので別の行き方を知りたい」「食物アレルギーがある」といった予想外の相談には、ある程度の日本語理解が必要です。そのため企業側は、一般的な日本語だけではなく、ホテルで使う日本語、接客用語、クレーム対応、安全対応などを教える必要があります。
外部の日本語教室へ通わせる場合は費用がかかりますし、社内で教える場合は日本人社員の時間がかかります。つまり日本語教育も企業側のコストとして考える必要があります。
それなら日本人に外国語を教えた方が安いのでは?
ここが非常に重要な論点です。外国人観光客への対応だけが目的なら、既存の日本人スタッフに外国語を教える方が効率的な場合があります。すでにホテルで働いている日本人スタッフなら、接客方法、予約システム、館内設備、地域情報、クレーム対応、日本のマナーなどを知っています。そこへ「ホテル英語」や「接客中国語」を追加するだけで、多言語対応ができるようになります。
一方、新しく外国人を採用すると、日本語だけでなく、ホテル業務そのものも一から教えなければなりません。つまり、外国人に「日本語+ホテル業務」を教えるのか、日本人に「外国語だけ」を教えるのかという違いがあります。外国語対応だけが目的なら、日本人教育の方がコストパフォーマンスが良いケースは十分あります。
日本人スタッフ全員が英語をペラペラになる必要はない
「日本人に英語を教える」と言うと、「英会話を何年も勉強しなければならないのでは?」と思うかもしれません。しかし、ホテル業務で使う英語はある程度パターン化できます。例えば、「お名前をお願いします」「パスポートを見せてください」「朝食は7時からです」「チェックアウトは10時です」「駅はこちらです」「少々お待ちください」「確認いたします」などです。こうした表現を集中して覚えれば、外国語対応力はかなり上がります。
さらに現在はAI翻訳や翻訳端末もあります。複雑な質問だけAI翻訳を使えば、日本人スタッフ全員が高度な英語力を持つ必要はありません。つまり企業側は、外国人採用の前に、外国語教育とAI翻訳を組み合わせることで、多言語対応の問題をかなり解決できる可能性があります。
外国語手当を付ける方法もある
外国人採用にかかる追加費用を、日本人スタッフへの外国語手当に回す方法もあります。例えば英語、中国語、韓国語などで一定レベルの接客ができる社員に月5,000円や1万円の手当を支給します。日本人スタッフ10人に月1万円の外国語手当を出せば、年間120万円です。
一方、外国人を数人採用する場合、採用費、監理支援費、日本語教育費、住居関連費などを合わせると、それ以上のコストがかかる可能性があります。もし年間120万円の追加費用で、日本人スタッフの定着率が上がり、外国語対応もできるようになるのであれば、その方が企業にとって合理的な場合もあります。
日本人の賃上げに回す方が効果的な場合もある
外国人を採用する企業が最初に考えるべきなのは、「なぜ日本人が応募してこないのか」という点です。例えば、月給20万円で募集しても応募者が来ないホテルがあるとします。そこで外国人を採用するために、年間50万円の追加コストがかかると仮定します。もしその50万円を日本人スタッフの賃上げに回し、月給を22万円や23万円にしたら応募者が増えるのであれば、外国人を採用するより簡単です。
例えば日本人スタッフ10人に月1万円の賃上げをすると、年間120万円です。外国人3人を採用するために、1人あたり年間40万円の追加支援費がかかると仮定すれば、同じ年間120万円です。この場合、「外国人3人を新たに採用する」か、「日本人10人の給与を月1万円上げる」かを比較できます。
もちろん、これは分かりやすくするための仮定であり、実際の金額は企業によって大きく違います。しかし重要なのは、外国人採用費と日本人待遇改善費を同じテーブルで比較することです。
ただし、賃上げだけでは人が集まらない地域もある
一方で、賃金を上げれば必ず人が集まるわけではありません。地方の温泉旅館などでは、そもそも働ける年齢層の人口が少なくなっている場合があります。若い人が都市部へ流出し、求人を出しても応募者そのものがいないケースです。この場合、月給を1万円や2万円上げても採用できないことがあります。
また、宿泊業は土日祝日勤務、早朝勤務、夜勤、繁忙期の長時間勤務などがあり、勤務条件を理由に敬遠される場合もあります。給与だけではなく、働き方そのものを改善しなければ応募者が増えないこともあります。
つまり「外国人を入れる前に日本人の給料を上げればいい」という考えは合理的ですが、それだけですべて解決するわけでもありません。企業ごとに人手不足の原因を確認する必要があります。
外国人採用と日本人への外国語教育は目的が違う
ここを整理すると非常に分かりやすくなります。外国人観光客への対応に困っているだけなら、日本人への外国語教育やAI翻訳で解決できる可能性があります。しかし、働く人そのものが足りないのであれば、日本人スタッフに英語を教えても人数は増えません。
例えばホテルに必要なスタッフが20人なのに15人しかいない場合、15人に英語を教えても、足りない5人は埋まりません。その場合は、新しく日本人を採用するか、外国人を採用するか、省人化するしかありません。
つまり外国語教育と外国人採用は競合する施策ではなく、そもそも目的が違うのです。
AIや自動化という第三の選択肢
2027年以降のホテル経営では、「日本人を採用する」「外国人を採用する」の二択だけで考える必要はありません。AIや自動化によって必要な人員そのものを減らすこともできます。
例えば、自動チェックイン機、スマートフォンチェックイン、自動精算機、多言語AIチャット、AI翻訳、QRコードによる館内案内、清掃管理システム、予約管理AIなどです。フロントで2人必要だった業務を1人でできるようになれば、そもそも外国人を新しく採用する必要がなくなる可能性があります。
特にホテルのチェックインやチェックアウトは定型業務が多いため、自動化との相性が良い分野です。外国人観光客への案内も、多言語AIやQRコードを使えば、スタッフが一人ずつ説明しなくても済みます。つまり企業は「外国人を何人採るか」ではなく、「人間がやるべき仕事はどこなのか」から考える必要があります。
企業側がまず確認すべきなのは「なぜ日本人が辞めるのか」
外国人採用の前に、現在働いている日本人スタッフが辞める理由を確認することも重要です。給料が低い、休日が少ない、残業が多い、人間関係が悪い、土日が休めない、夜勤が多い、教育制度がない、昇進の見通しがないなど、離職には原因があります。
これを改善せずに外国人を採用しても、同じ問題が外国人にも起きる可能性があります。育成就労制度では、一定条件を満たせば本人希望による転籍が認められます。つまり待遇の悪い会社に外国人を入れても、条件を満たした後により良い会社へ移ってしまう可能性があります。
技能実習時代のように、「一度来たら簡単には会社を変えられないから大丈夫」という考えは通用しにくくなります。
転籍制度は企業側には厳しいが、労働環境改善につながる可能性もある
宿泊分野では、一定の条件を満たせば本人希望による転籍ができます。これは企業から見るとリスクです。時間とお金をかけて日本語や接客を教えた外国人が、給与の高いホテルへ移ってしまうかもしれません。
しかし逆に考えると、企業の待遇改善を促す仕組みでもあります。例えば、Aホテルは月給22万円、Bホテルは25万円。Aホテルは寮が古く、休日も少ない。Bホテルは寮がきれいで、日本語教育もある。この状況なら、外国人はBホテルを選ぶ可能性が高くなります。するとAホテルも人材を確保するため、給与、休日、寮、教育制度などを改善せざるを得なくなります。
そしてその改善は、外国人だけでなく日本人スタッフにも恩恵があります。つまり転籍制度によって、宿泊業全体で人材獲得競争が起き、待遇改善が進む可能性もあります。
日本人と外国人を対立させる必要はない
外国人雇用の話になると、「外国人を増やすべきか」「日本人を優先すべきか」という二択の議論になりがちです。しかし企業経営として考えると、もっと現実的な方法があります。
まず日本人スタッフの待遇を改善し、今いる人に辞めてもらわないようにする。次に、ホテル英語など必要な外国語教育を行う。さらにAIや自動化で人員負担を減らす。それでも足りない部分について、育成就労や特定技能で外国人を採用する。
この順番で考えれば、日本人と外国人を対立させる必要はありません。
外国人だからこその強みもある
もちろん、外国人スタッフには日本人スタッフにはない強みもあります。母国語で外国人観光客へ対応できることです。英語、中国語、韓国語、ベトナム語などを母国語として話せる外国人なら、単なる翻訳以上の対応ができます。
例えば、その国で人気の観光地、食事の好み、宗教上の注意、文化的なマナー、旅行者が困りやすいことなどを理解している場合があります。海外SNSの情報発信や海外向けマーケティングに関わることもできます。
外国人を単なる人手として使うのではなく、「海外顧客を理解できる人材」として育成すれば、企業にとっての価値は大きくなります。
外国人を採用した方がよい企業
育成就労が向いているのは、日本人だけでは必要な人数を確保できず、今後も人手不足が続く可能性が高い企業です。また、3年間かけて人材を育てる余裕があり、将来的に特定技能へ移行して長く働いてもらいたい企業にも向いています。
地方旅館などで「求人を半年出しても応募がほとんどない」「人手不足で客室販売を減らしている」という状況なら、外国人採用のメリットは大きくなります。
一方、「日本人が普通に応募してくる」「外国人の方が安そうだから」という理由だけなら、育成就労を使う必要性は低いでしょう。
外国人を採用しない方がよい企業
逆に、教育する人がいない会社、日本語教育を行う余裕がない会社、外国人を低賃金で使いたいだけの会社、住居支援や生活支援が面倒だと考える会社には向いていません。
育成就労は名前の通り「育成」の制度です。企業側が育てる気がなければ成り立ちません。
また、現場の日本人社員に外国人教育を丸投げすると、従業員の負担が増えます。「外国人が増えたせいで仕事が増えた」と感じるようになれば、今度は日本人社員が辞めるかもしれません。受入れ企業は、日本人側への配慮も必要です。
外国人雇用によって日本人の残業が減るならメリットは大きい
外国人雇用の効果を見るとき、日本人の賃金だけでなく残業時間も確認する必要があります。例えば、日本人スタッフ10人が人手不足によって毎月60時間残業していたとします。外国人3人を採用した結果、残業が月20時間まで減ったなら、日本人にとっても大きなメリットです。
会社側も残業代を削減でき、日本人社員の離職率を下げられる可能性があります。外国人採用は単なる人数補充ではなく、既存スタッフの負担軽減につながる場合があります。
逆に、外国人の教育負担によって日本人スタッフの残業が増えたのであれば、制度利用がうまくいっていないと言えます。
外国人を増やすことで日本人の賃金が上がりにくくならないか
これは重要な懸念です。人手不足なら本来は賃金が上がりやすくなります。企業は人を確保するために待遇を改善する必要があるからです。しかし海外から大量に人材を採用できるようになると、「賃金を上げなくても人を確保できる」と企業が判断する可能性があります。
もしそうなれば、日本人だけでなく外国人の賃金も低いまま固定される可能性があります。そのため制度を評価する際は、受入れ人数だけではなく、日本人と外国人双方の賃金推移を見る必要があります。
ただし、育成就労では本人希望転籍が可能になるため、待遇が悪い会社から人が移る可能性があります。この転籍制度が正常に機能すれば、逆に給与を上げない会社は人材を確保できなくなり、賃金競争が起きる可能性もあります。
外国人採用に成功する会社と失敗する会社の違い
成功しやすい会社は、外国人を「労働力」ではなく「将来の社員」として扱う会社です。日本語教育、技能教育、キャリアアップ、住居、相談体制などを整え、3年後に特定技能へ進んでもらうことを考えます。
失敗しやすい会社は、「日本人が来ないから外国人で埋めればいい」と考える会社です。職場環境を改善せず、安い寮に住ませ、教育もせず、単純作業だけをさせる。そのような会社は、外国人が転籍できるようになれば人材が流出する可能性が高いでしょう。
ホテル・旅館が本当に比較すべき4つの方法
ホテルや旅館が人手不足に直面した場合、少なくとも4つの方法を比較すべきです。1つ目は日本人の待遇改善です。給与、休日、勤務時間、福利厚生を改善する。2つ目は既存スタッフの外国語教育です。ホテル英語やAI翻訳で外国人観光客へ対応する。3つ目はAI・自動化です。自動チェックインや予約管理などで必要人数を減らす。4つ目が外国人採用です。
これらはどれか一つを選ぶものではありません。例えば、日本人スタッフの給料を少し上げ、AIチェックインを導入し、それでも足りない3人だけ外国人を採用するという組み合わせが一番現実的かもしれません。
「外国人か日本人か」ではなく総コストで考える
企業が最終的に見るべきなのは総コストです。外国人を一人採用する場合は、給与、社会保険、採用費、監理支援費、日本語教育、住居支援、行政手続き、教育担当者の時間などを合計します。
日本人を一人採用する場合は、給与、社会保険、求人広告費、紹介会社への手数料などがあります。
さらに、日本人の給与を月2万円上げる案、外国語手当を付ける案、自動チェックイン機を導入する案なども同じように比較します。
例えば、外国人3人の受入れに年間200万円の追加費用がかかるとします。一方、AIチェックイン機を導入して必要人数を2人減らせるなら、その方が安い場合もあります。逆に、設備投資に1,000万円かかり、人間でなければ対応できない仕事が多いなら、外国人採用の方が安いかもしれません。
一番重要なのは「日本人が集まらない原因」
結局、企業側が最初にやるべきことは、外国人採用ではありません。「なぜ日本人が集まらないのか」を調べることです。
給料が低いなら給料を上げる。休日が少ないなら増やす。残業が多いなら人員配置を変える。外国語対応が問題なら日本人に外国語を教える。単純作業が多いならAIや自動化を進める。それでも人が足りないなら外国人を採用する。
この順番で考えれば、外国人雇用が本当に必要なのかが見えてきます。
育成就労が日本の宿泊業を変える可能性
育成就労制度は、単なる外国人受入れ政策ではありません。うまく機能すれば、日本の宿泊業界そのものを変える可能性があります。外国人が転籍できるようになれば、待遇の良い企業へ人材が集まります。企業は人材を確保するために給与や休日を改善する必要があります。日本語教育や多言語マニュアルを整備すれば、日本人の新人教育も改善できます。外国人スタッフが海外観光客への対応で活躍すれば、インバウンドサービスも向上します。
一方で、外国人を大量に受け入れることで日本人の賃金上昇が鈍る、地方から都市部へ外国人材が流出する、日本人社員の教育負担が増えるなどの問題も起こる可能性があります。
だからこそ、制度開始後は「外国人が何人増えたか」だけを見るのでは不十分です。
今後確認したい数字
2027年4月以降、特に確認したいのは、宿泊分野で何人の外国人が育成就労を始めたのか、何人が途中で転籍したのか、地方から都市部への移動がどのくらいあったのか、日本人と外国人の平均賃金はどう変わったのか、日本人スタッフの残業時間は減ったのか、離職率はどうなったのか、特定技能1号へ何人移行したのか、外国人採用に企業がどのくらい費用を使ったのか、といった点です。
こうした数字を見れば、育成就労制度が本当に人手不足を解決したのか、それとも問題を先送りしただけなのかが分かってきます。
まとめ|外国人を採用する前に、日本人の待遇改善・外国語教育・AIを比較するべき
育成就労制度によって、ホテル・旅館は海外から人材を受け入れ、原則3年間かけて育成し、その後特定技能へ進んでもらうことが可能になります。企業にとって最大のメリットは、外国人を安く雇えることではありません。日本人だけでは確保できない人材を海外から採用できることです。
一方で、外国人を受け入れる企業には、給与だけでなく、社会保険、監理支援費、日本語教育、技能教育、住居支援、行政手続きなどさまざまな追加負担があります。場合によっては日本人を採用するより総コストが高くなることもあります。
そこで企業は、外国人採用だけを見るのではなく、日本人の賃上げ、外国語教育、外国語手当、AI翻訳、自動チェックイン、省人化などと比較する必要があります。
外国人観光客への対応だけが問題なら、日本人スタッフにホテル英語を教え、AI翻訳を使う方が安く済む可能性があります。日本人スタッフそのものが足りないのであれば、外国語教育では解決しません。その場合は外国人採用も有力な選択肢になります。
つまり、「外国人か日本人か」という二択ではありません。まず日本人が働き続けやすい職場を作り、必要な外国語教育を行い、AIや自動化を進め、それでも足りない部分に外国人材を活用する。この順番が最も現実的ではないでしょうか。
育成就労制度が成功したかどうかは、外国人受入れ人数だけでは判断できません。日本人と外国人双方の賃金が適正に上がったのか、宿泊業の人手不足が本当に改善したのか、日本人スタッフの残業が減ったのか、外国人が技能を身につけ特定技能へ進めたのか、企業の生産性やサービスが向上したのか。そこまで見て初めて、制度の本当の価値が分かります。
2027年4月以降、ホテル・旅館の人手不足対策は、「外国人を入れるかどうか」という単純な問題ではなくなります。日本人の待遇改善、教育、AI、省人化、外国人材をどう組み合わせるかという経営戦略そのものが問われる時代になると考えた方がよいでしょう。
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【育成就労2027】外国人を雇うより日本人の賃上げ・外国語教育の方がいい?ホテル・旅館の費用とメリットを徹底比較
メタディスクリプション
2027年4月からホテル・旅館でも育成就労制度が本格化。外国人を雇う企業にはどんなメリットがあり、給与以外にどんな費用がかかる?日本人の賃上げ、外国語教育、外国語手当、AI翻訳、自動化との比較まで初心者向けに詳しく解説します。
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