「AIが伸びるなら、半導体の会社ももうかるはず。それなのに、なぜキオクシアの株価は大きく下がっているの?」。ニュースを見て、こう感じた人もいるのではないでしょうか。キオクシアを理解するには、何を作る会社なのかに加え、会社の業績と株価、そして投資家の売買事情を分けて考えることが大切です。この記事では、難しい言葉をできるだけ使わず、今回のニュースを読み解いていきます。
※本記事は2026年10月20日時点の公開情報に基づきます。株価・目標株価・信用残高はそれぞれの基準日を記載しています。特定銘柄の売買を勧める記事ではありません。
キオクシアを理解するために、最初に押さえたいこと
| 疑問 | 簡単な答え |
|---|---|
| どんな会社? | スマホやパソコン、データセンターで情報を保存する半導体やSSDを作る会社 |
| 東芝と関係がある? | 東芝のメモリ事業を引き継いだ会社 |
| AIとどう関係する? | AIが扱う大量の情報を保存し、読み出すための製品を供給する |
| 63%下落とは? | 報道によると、6月の最高値からの下落率。1日の下落率ではない |
| 信用買い9,200億円とは? | 投資家が借りたお金で買い、まだ決済していない取引の残高 |
| 今は割安なの? | 今後の利益が続くかどうかによって変わり、下落率だけでは判断できない |
キオクシアは「データを保存する技術」の会社
キオクシアの主力は「NAND型フラッシュメモリ」という半導体です。名前だけでは難しく感じますが、電源を切ってもデータが消えない記憶部品と考えるとわかりやすいでしょう。スマートフォンで撮った写真や動画を保存したり、パソコンにファイルを残したりする際に、こうした技術が使われます。キオクシアは、そのメモリや、メモリを使ってデータを保存する装置であるSSDなどを開発・製造・販売しています。[1]
「半導体」と聞くと、すべて同じ製品に感じるかもしれません。しかし、半導体には計算をするもの、情報を一時的に置くもの、情報を保存するものなど、さまざまな役割があります。キオクシアを知る際には、まず「情報を保存する分野を主力とする会社」と押さえておくと、ニュースを理解しやすくなります。
もともとは東芝メモリ。新しい名前でも技術の歴史がある
キオクシアは、2017年に東芝のメモリ事業を引き継ぎました。当初は「東芝メモリ」という名前でしたが、2019年10月に「キオクシア」へ社名を変更しています。NAND型フラッシュメモリの歴史は東芝時代の1987年までさかのぼります。会社名だけを見ると最近登場した企業のようですが、長年の技術開発を受け継いでいる会社です。[1][2]
なお、株式市場に上場しているのは「キオクシアホールディングス」で、証券コードは285Aです。グループ内には製品の開発・製造などを担うキオクシア株式会社があります。「キオクシアの株価」というニュースでは、基本的にこの上場会社の株価を指しています。[3]
AIが広がると、なぜキオクシアに期待が集まるのか
AIには、大量の計算を処理する力と、その処理で使う情報を保存・読み出しする仕組みが必要です。料理に例えるなら、調理する人が計算用の半導体、食材を保管して必要なものを取り出す設備がストレージに近い役割です。調理する人が優秀でも、必要な食材をすぐに取り出せなければ作業は進みません。
キオクシアは、AIの利用拡大に伴って重要性が増すSSDやフラッシュメモリを供給する立場にあります。会社のInvestor Day資料でも、データセンター向け製品への注力や、AIの推論処理を支えるストレージの役割拡大を示しています。ただし、これは会社の戦略や見通しであり、将来の売上や利益を保証するものではありません。[4]
ここで注意したいのは、「AIが普及する」と「その会社の株価が必ず上がる」は同じ意味ではないことです。需要が増えても、競争が激しくなったり、製品価格が下がったりすれば、利益が期待ほど増えない可能性があります。さらに、将来の成長を株価が先に織り込んでいる場合もあります。
会社の業績はどうなっている?確認できた通期決算では増収増益
キオクシアの2026年3月期、つまり2025年4月から2026年3月までの通期決算を、前の年度と比べてみましょう。[5]
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 約1兆7,065億円 | 約2兆3,376億円 |
| 営業利益 | 約4,517億円 | 約8,704億円 |
| 親会社株主に帰属する純利益 | 約2,723億円 | 約5,545億円 |
売上収益は約37%増え、営業利益と純利益も大きく増加しています。会社は、生成AI用途を中心としたデータセンター向けの強い需要、平均販売単価の上昇、出荷量の増加などを理由に挙げています。この通期実績からは、事業が赤字で苦しんでいる会社という姿は読み取れません。[5]
ただし、これは過去の実績で、2026年10月時点の年間業績が確定したわけではありません。すでに2027年3月期の第1四半期決算も公表されており、次の第2四半期決算は10月30日に発表予定と案内されています。この記事では通期の比較に上記の実績を使い、今期の市場予想とは区別します。[3][6]
「株価63%下落」は、何が起きたという意味?
10月20日配信の記事は、キオクシアの株価が「6月の最高値から63%下落した」と報じました。見出しだけを読むと一日で急落したように感じるかもしれませんが、一定期間の高値との比較です。[7]
例えば、仮に株価が1万円から3,700円になれば、下落率は63%です。一方、3,700円から1万円へ戻るには約170%の上昇が必要になります。下がった割合と、元に戻るために必要な上昇率は同じではありません。
また、記事の63%は記事が参照した時点の数字です。その後も株価は動きます。10月20日の終値は1万3,140円、前日比460円安、下落率は3.38%でした。「高値からの下落率」と「当日の前日比」を混同しないようにしましょう。[8]
株価を過去と比較するときは、株式分割を反映した同じ基準で比べることも大切です。異なる基準の価格をそのまま並べると、実際の値下がり以上に下がったように見えることがあります。
信用買い9,200億円は、会社の借金ではない
今回のニュースで注目されているのが、約9,200億円の「信用買い残」です。ブルームバーグの報道では、巨額の信用買い残が株価回復の重荷になる可能性が指摘されています。紹介記事によると、残高の基準日は10月15日です。[7][9]
信用買いとは、証券会社からお金を借りて株式を買う取引です。そして信用買い残とは、買った後にまだ返済・決済されていない取引の残高です。これはキオクシアが借りているお金でも、会社が受け取った売上でもありません。投資家側の取引の話です。
例えば、自己資金だけでは100万円分しか買えない人が、信用取引を使ってそれ以上の株を買うと、値上がりした際の利益は大きくなり得ます。しかし、値下がりした際の損失も自己資金に対して大きくなります。担保が不足すれば「追証」と呼ばれる追加の保証金を求められることがあります。[10]
買う人が多かったのに、なぜ信用買いが株価の重荷になる?
「買いが多いなら、株価には良い話では?」と感じるかもしれません。確かに、新しく株を買う注文は価格を押し上げる方向に働きます。しかし、信用買い残は「これから買う予定の注文」ではなく、すでに買われた取引です。今後、その取引をどう決済するかが問題になります。
株価が下がって担保が不足した人は、資金を追加したり、保有株を売却したりして対応することがあります。また、少し株価が戻ったところで「損が小さくなったので売ろう」と考える人もいます。制度信用取引には原則6か月の返済期限があるため、期限が近づくことも決済のきっかけになります。[10]
もっとも、信用買いした株が必ず市場で売却されるわけではありません。自己資金で借入金を返して株式を受け取る「現引き」という方法もあります。そのため、「9,200億円分がすべて売りに出る」「同じ金額だけ株価が下がる」という理解は誤りです。重要なのは、残高の大きさと、売買の活発さ、今後の買い需要との関係です。[10]
現在の株価は「買われすぎ」なのか
この疑問は、二つに分けると整理できます。一つは「借りたお金で買っている投資家の取引が偏っているか」、もう一つは「会社の利益や価値に対して株価が高すぎるか」です。
今回の信用買い残の報道は、主に前者の問題を指しています。信用買いが積み上がったことで、将来の決済売りが株価回復を妨げる可能性があるという話です。一方、企業価値に対して割高かどうかは、将来の利益、成長率、財務、事業のリスクなどを見なければ判断できません。
つまり、「信用買いが多いから、現在の株価は絶対に割高」とは言えません。反対に、「高値から大きく下がったから、今は絶対に割安」とも言えません。高値が非常に楽観的だった可能性もあれば、今の株価が将来の不安を強く反映している可能性もあります。
アナリストの予想は強気。ただし、株主全員の意見ではない
みんかぶが掲載する2026年10月20日時点の集計では、キオクシアを評価するアナリスト16人のうち、強気買いが9人、買いが6人、売りが1人となっています。平均目標株価は3万6,929円で、同日の終値1万3,140円に対して約2.8倍の水準です。同サイトは、この目標株価を予想時点から1年後の予想として説明しています。[11]
| 評価 | 人数 |
|---|---|
| 強気買い | 9人 |
| 買い | 6人 |
| 中立 | 0人 |
| 売り | 1人 |
| 強気売り | 0人 |
この数字からは、掲載対象のアナリストには将来の回復を期待する見方が多いとわかります。ただし、アナリストは株主全体を代表しているわけではありません。また、平均目標株価は1週間前の3万7,471円から3万6,929円へ下がっています。強気の評価であっても、予想は変化します。[11]
目標株価は会社が買い取ってくれる値段でも、必ず到達する価格でもありません。利益予想や評価方法などの前提が変われば、目標株価も大きく変わります。現在の株価との差を、そのまま確実な利益として受け取らないことが大切です。
個人投資家の投稿では弱気も目立つ。集計の限界に注意
Yahoo!ファイナンス掲示板で確認した直近1週間の感情集計では、「買いたい・強く買いたい」が約28%、「様子見」が約16%、「売りたい・強く売りたい」が約56%でした。これは2026年10月20日の確認時点の数字です。[12]
ただし、この集計は投稿者が投稿時に選んだ感情の割合です。全株主を対象にした調査ではなく、保有株数や運用資金の大きさも反映していません。同じ人の複数投稿や、保有していない人の投稿が含まれる可能性もあります。「株主の56%が売りたがっている」という意味ではありません。
それでも、長期の業績を評価するアナリストの強気な予想と、足元の値下がりを気にする投稿者の慎重な心理には、温度差があると考えられます。ただし、すべてのアナリストが長期、すべての個人投資家が短期というわけではありません。
業績が良いのに株価が下がる理由
株価は、会社の過去の成績だけで決まりません。将来への期待と、その期待に対して現在の価格がどうかという判断も反映します。例えば、利益が2倍になると期待されて大きく値上がりした株が、実際には1.5倍の利益にとどまった場合、増益でも売られることがあります。これは説明のための仮定ですが、「好決算なのに株安」が起こる仕組みを表しています。
キオクシアを見る際にも、AI需要が強いという話に加え、その需要がどれだけ長く続くか、メモリ価格がどう動くか、競争や設備投資で供給がどう変わるかを考える必要があります。会社自身も、半導体メモリ業界は事業環境が短期間に大きく変わる特徴があると説明しています。[5]
私の見方では、現在の株価と強気な予想の大きな差は、「将来の利益への期待」と「その利益が続くかという不安」、さらに「信用買い残による売却への警戒」が同時に存在することを示しています。ただし、株価下落の原因を一つに断定することはできません。
PERが低ければ、本当にお買い得なのか
PERは、株価が1株当たり利益の何倍になっているかを示す指標です。例えば、株価が1万円、1株当たり利益が2,000円ならPERは5倍です。利益が同じなら、一般にPERが低い方が株価は安く見えます。
ところが、同じ株価1万円でも、1株当たり利益が500円に減ればPERは20倍になります。最初は5倍で安く見えても、その利益が好況時だけのものなら、見え方が変わってしまうのです。これは仮定の数字であり、キオクシアの将来利益の予測ではありません。
メモリ会社では、販売価格の変化が利益に影響します。キオクシアの通期決算でも、販売単価の上昇が業績改善の要因として挙げられています。「今期予想の利益で計算したPER」と「その利益を数年維持できる場合の評価」は、分けて考えたいところです。[5]
初心者が次に確認したい四つのポイント
まず見たいのは、売上や利益の増加が「販売数量」「販売価格」「製品構成」のどれによるものかです。単価上昇が主因なら、その価格が続くかが重要になります。次に、AI・データセンター向けの需要について、会社がどう説明しているかを確認します。過去の好調さだけでなく、今後の受注や需要の見方にも注目しましょう。
三つ目は信用買い残の推移です。ただし、残高が減れば必ず上昇するわけではありません。株価や売買高と合わせて、決済がどのように進んでいるかを見る必要があります。四つ目は、利益だけでなく、設備投資や資金繰りも含めた財務状況です。成長には投資が必要ですが、その投資が将来の収益につながるかが問われます。
次の確認機会は、10月30日予定の第2四半期決算です。実績が市場予想とどう違ったか、会社がその後の見通しをどう説明するかを確認すると、ニュースの印象だけで判断しにくくなります。[3]
初めて個別株を考える人へ
キオクシアのように成長期待が大きい銘柄は、魅力的な技術や事業がある一方で、株価の変動も大きくなり得ます。「良い会社だから、どの価格でも良い投資になる」とは限りません。会社の将来を評価することと、自分の生活に合う投資かを考えることは、どちらも必要です。
個別株を検討するときは、近い将来に使う教育費や生活費と分けて考え、仮に株価がさらに下がった場合に家計へどれほど影響するかを金額で確認すると判断しやすくなります。特に信用取引では、会社の将来に期待していても、追証や返済の都合で待ち続けられない場合があります。[10]
キオクシアについて現在言えるのは、AI社会を支えるメモリ・SSDの事業を持ち、確認した通期実績では大幅な増収増益を達成している一方、株式市場では巨額の信用買い残や将来への不安が意識されているということです。株価が下がった割合や目標株価だけで結論を出さず、「利益が続く条件は何か」を確認していくことが、この会社を理解する一歩になります。
参考資料・関連リンク
[1] キオクシア株式会社について
[2] 東芝メモリ株式会社を「キオクシア株式会社」に社名変更
[3] キオクシアホールディングス:株主・投資家情報
[4] Investor Day 2026資料(PDF)
[5] 2026年3月期 決算短信(PDF)
[6] キオクシア:IRニュース
[7] 政経フォーカス:株価63%下落と信用買い残についての記事
[8] 株予報Pro:キオクシアの株価・決算情報
[9] TBS CROSS DIG with Bloomberg:信用買い残についての報道
[10] 日本取引所グループ:信用取引の目的・仕組み
[11] みんかぶ:キオクシアの証券アナリスト予想
[12] Yahoo!ファイナンス:キオクシア掲示板
※株価・予想・掲示板の感情集計などは随時更新されます。本文は記事作成時点の確認内容です。



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