「生活保護は日本国民のための制度ではないの?」「なぜ外国人も生活保護を受けられるの?」と疑問に思ったことがある人もいるかもしれません。
この問題について、2026年3月24日の参議院法務委員会で、日本保守党の北村晴男議員が政府に質問しました。参議院が公表している質疑項目にも「通知に基づき外国人について生活保護に準じた取扱いをしている現状に対する政府の認識」が明記されています。
この問題を理解するうえで非常に重要なのが、「生活保護法そのもの」と「外国人に対して行われている行政上の措置」は厳密には同じものではないという点です。
今回は、外国人への生活保護がどのような仕組みで行われているのか、北村晴男議員の国会質疑も踏まえながら初心者向けに整理します。
まず結論|外国人は生活保護法そのものの対象ではない
最初に一番重要なポイントです。
生活保護法第1条は、生活保護制度について「日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し」と定めています。
そのため、法律上の「生活保護法」の対象となる「国民」は日本国民を意味すると解されています。
2014年7月18日の最高裁判決でも、外国人は生活保護法の適用対象には含まれず、外国人は行政措置によって事実上の保護の対象になり得るにとどまる、という考え方が示されています。その後の裁判でも、この最高裁判決を前提として判断されています。
つまり、
**日本人 → 生活保護法に基づく生活保護**
**一定の外国人 → 行政措置として生活保護法に準じた保護**
という違いがあります。
ここを区別しないと、「最高裁が外国人への生活保護を禁止した」「外国人にも日本人と全く同じ法律上の生活保護受給権がある」といった両極端な理解になってしまいます。
どちらも正確ではありません。
では、なぜ外国人にも保護が行われているのか
現在の外国人に対する生活保護に準じた措置の大きな根拠となっているのが、1954年、昭和29年に旧厚生省が出した通知です。
正式には、
「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」
という通知で、1954年5月8日に厚生省社会局長から各都道府県知事宛てに出されました。
この通知には、外国人は生活保護法の適用対象ではないものの、「当分の間」、生活に困窮する外国人に対して日本国民への生活保護の取扱いに準じて必要な保護を行うことが記されています。
つまり現在の仕組みは、外国人を生活保護法の対象にする法律を新たに作ったのではありません。
行政が人道上の観点から、一定の外国人について生活保護制度に準じた支援を行っているという形です。
「1954年の通知」が現在まで続いている
ここが北村晴男議員が国会で問題提起したポイントの一つです。
1954年の通知では「当分の間」と書かれていました。
ところが、その運用は現在まで続いています。
政府は過去の国会答弁でも、「当分の間」という言葉について具体的な期間を想定しているわけではないとの考えを示しています。
2022年の政府答弁書でも、
生活に困窮する外国人が現在も一定程度存在することから、昭和29年通知を見直す状況にはない
という趣旨の説明がされています。
そのため、1954年に始まった行政措置が70年以上にわたり続いていることになります。
北村議員の質疑は、この仕組みを今後も行政通知によって続けるのか、制度としてどのように整理するべきなのかという論点を改めて国会で取り上げたものと見ることができます。
すべての外国人が生活保護を受けられるわけではない
ここも誤解されやすいところです。
「日本にいる外国人なら誰でも生活保護を受けられる」という制度ではありません。
厚生労働省は、主として日本国内で活動に制限を受けない一定の在留資格を持つ外国人について、生活保護法に準じた措置の対象としています。
具体例としては、
永住者、定住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、特別永住者
などです。
一方、技能実習や特定技能など、就労できる活動が一定の範囲に限定されている在留資格については、原則として生活保護法に準じた保護の対象とはされていません。
したがって、「外国人」という一括りだけで制度を理解するのではなく、在留資格によって扱いが異なることを知っておく必要があります。
日本人と外国人では法律上の立場が違う
日本人の場合、生活保護は法律に基づく制度です。
要件を満たしているにもかかわらず生活保護を受けられなかった場合などには、法律上の手続きを利用して争うことができます。
一方、1954年通知では、外国人への措置について「法律上の権利として保障したものではない」と説明されています。
ここが非常に大きな違いです。
実際の給付内容などは生活保護制度に準じて運用されますが、その法律上の位置付けまで日本国民と完全に同じというわけではありません。
最高裁は外国人への生活保護を「禁止」したわけではない
ネット上では、「最高裁が外国人への生活保護は違法と判断した」
といった説明を見ることがあります。しかし、これは注意が必要です。
2014年の最高裁判決は、外国人について生活保護法上の受給権が認められるかどうかを判断したものであり、外国人への行政措置による支援そのものを禁止したわけではありません。
政府も国会で、外国人は生活保護法の適用対象には含まれない一方、行政措置によって事実上の保護の対象となり得る
という最高裁判決の考え方を繰り返し説明しています。
そのため、「生活保護法上の権利はない」ことと、「行政措置による支援もできない」
ことは別問題です。
北村晴男議員が国会で取り上げた
2026年3月24日の参議院法務委員会では、日本保守党の北村晴男議員がこの問題について政府に質問しました。
参議院が公表した公式の質疑項目には、
「通知に基づき外国人について生活保護に準じた取扱いをしている現状に対する政府の認識」が北村議員の質問として掲載されています。
この日の法務委員会では、北村議員だけでなく外国人政策について複数の議員が質問しており、育成就労制度や特定技能制度なども議題となりました。
今後、日本で在留外国人や外国人労働者が増えていけば、生活保護を含めた社会保障制度との関係はさらに議論される可能性があります。
#なぜ国会で議論になるのか
この問題には大きく二つの考え方があります。
一つは、「70年以上前の行政通知に基づいて運用するのではなく、国会で制度を明確に法律化する、あるいは対象を改めて議論するべきではないか」
という考え方です。
実際、過去の国会でも、長期間にわたって通知を根拠に制度を運用することの妥当性について議員から問題提起されています。
もう一つは、「日本で長期間合法的に暮らしている永住者などが生活困窮状態になった場合、人道上のセーフティーネットが必要ではないか」
という考え方です。
政府は現在、後者の人道上の観点から行政措置を継続しています。
このため、この問題は単純に「外国人に生活保護を出すか、出さないか」だけではありません。
対象となる在留資格をどこまでにするのか、法律で規定するのか、行政措置を続けるのか、支給状況をどこまで把握・公開するのか、といった制度設計の問題でもあります。
実は国籍別の申請件数を把握していない項目もある
この問題を考えるうえで、もう一つ重要なのが統計です。
2022年の政府答弁書では、国籍別の生活保護の「開始申請件数」や「開始件数」について政府が把握していないと回答しています。
外国人への行政措置を今後どのように考えるにしても、議論の前提となる正確なデータの把握は重要です。
単純な受給者数だけでなく、
在留資格、世帯構成、年齢構成、受給期間、就労状況、申請件数、受給に至った理由
などを確認できれば、より実態に即した議論ができます。
今後注目したいポイント
外国人への生活保護について今後特に注目したいのは、1954年通知を今後も維持するのかという点です。
また、外国人受け入れ政策そのものも大きく変化しています。
技能実習制度から育成就労制度への移行や、特定技能外国人の受け入れ拡大など、日本で中長期的に生活する外国人が増えれば、医療、年金、教育、住宅、生活保護など社会保障制度との関係も改めて整理する必要があります。
北村晴男議員をはじめ、国会議員が今後この問題についてどのような質問をし、政府がどのような答弁をするのかは引き続き注目したいところです。
まとめ
外国人への生活保護について最も重要なのは、
外国人が生活保護法そのものの対象になっているわけではない
という点です。
生活保護法上の対象は日本国民であり、最高裁もこの考え方を示しています。
一方で、1954年の旧厚生省通知を根拠として、永住者や定住者など一定の外国人については、人道上の観点から生活保護法に準じた行政措置が行われています。
つまり現在の制度は、
法律上の生活保護と、行政措置としての外国人への保護が併存している
と理解すると分かりやすいでしょう。
2026年3月24日の参議院法務委員会で北村晴男議員がこの問題を取り上げたことで、70年以上続く現在の仕組みを今後どうするのかが改めて論点として浮かび上がりました。
外国人受け入れ政策が変化する中、生活保護だけでなく、医療、年金、教育などを含め、日本の社会保障制度と外国人政策をどのように設計していくのか。今後も国会での議論を継続的に確認していく必要があります。



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