2026年、キオクシアホールディングス(285A)の株価は年初の1万円台から一時11万円台へ急上昇し、その後5万円台まで下がりました。「半値なら買い時では?」「証券会社の目標株価まで戻るのでは?」と気になる人も多いでしょう。ただ、株価が以前の半分になったことと、企業の価値に対して割安になったことは同じではありません。現在の株価を評価する鍵は、AI向けメモリ需要によって生まれた高い利益が、今後どれくらい続くかです。この記事では、2026年9月25日の終値と同年7月末までに公表された会社の決算資料、9月までの業界調査を基に、事業の仕組みから順番に整理します。
※この記事の株価と会社予想は2026年9月27日までに確認できた資料に基づきます。将来の株価や利益は確定していません。目標株価や試算は投資成果を保証するものではありません。
キオクシアは何をしている会社?
キオクシアは「NAND型フラッシュメモリ」と、それを使ったSSDを主力とする企業です。NAND型フラッシュメモリは、電源を切っても写真や文書などのデータを保存できる半導体。SSDは、その記憶技術を使ってデータを読み書きする装置です。スマートフォンやパソコンで使われるほか、企業のサーバーやデータセンターにも必要です。
AIとの関係は、AIの計算を担うGPUそのものを大量生産しているという意味ではありません。AIが回答を作る際に参照する大量のデータ、過去の処理結果、生成されたデータを、高速で読み書きするための記憶装置を供給するという関係です。キオクシアは2026年6月の説明会で、AI向けSSDを成長分野に位置づけ、データセンター・企業向けの売上比率を中長期的に60%以上へ高める方針を示しました。これは会社の目標であって、達成が確定した数字ではありません。参考:キオクシア「AI推論時代」における成長戦略。
2026年の株価はどう動いた?
2026年初めに約11,350円だった株価は、6月22日に112,700円の高値を付けました。その後大きく下落し、9月25日の終値は55,780円です。高値から約50.5%下がった一方、年初と比べると約4.9倍です。「年初からの大幅上昇」と「高値からの半減」が同時に起こりました。見る期間によって株の印象が変わる典型例といえます。株価データ:Investing.com・285Aの過去データ。
| 比較する時点 | 1株の価格 | 2026年9月25日終値との関係 |
|---|---|---|
| 2026年初め | 約11,350円 | 現在は約4.9倍 |
| 2026年6月の高値 | 112,700円 | 現在は約50.5%下 |
| 2026年9月25日終値 | 55,780円 | 本記事の計算基準 |
記事やSNSで「11万円から5万円まで下落」と見た場合、それは1株当たりの価格です。キオクシアの通常の売買単位は100株なので、9月25日終値で100株買うと約557万8,000円になります。少額で買える株だと勘違いしないようにしましょう。参考:キオクシア・株式の概要。
なお、会社は2026年10月1日に1株を3株に分割すると発表しています。例えば分割直前に1株55,780円なら、理論上は分割後の1株が約18,593円、同じ価値の保有株数は3倍になります。分割で企業価値が3倍になるわけではありません。分割後は100株当たりの購入額が下がるため、取引に参加しやすくなる見込みです。基準日の9月30日や実際の売買価格については、証券会社の案内で確認してください。参考:キオクシア・株式分割のお知らせ。
なぜ短期間で株価が大きく上がったのか
中心にあるのは、AI向けの需要増、メモリの販売価格上昇、利益拡大への期待です。半導体メモリは、同じ種類の製品でも需要と供給のバランスによって販売価格が大きく変わります。需要が急増する一方で供給をすぐ増やせなければ価格が上がり、売上だけでなく利益も大きく伸びることがあります。
キオクシアの2026年4~6月期の売上収益は1兆7,671億円。前年同期の3,428億円から大きく増え、営業利益は前年同期の449億円から1兆2,700億円へ伸びました。会社は、生成AI用途を中心とするデータセンター向け需要による平均販売単価の大幅上昇に加え、出荷量の増加や為替改善を増収の理由として挙げています。ここで重要なのは、売上増加のすべてを長期的な出荷量の成長とみなさないことです。価格上昇による利益がどこまで維持されるかで評価は変わります。参考:キオクシア・2027年3月期第1四半期決算短信。
成長産業なのに、なぜ株価は半分になったのか
株価は現時点の利益だけではなく、将来への期待も映します。短期間で株価が約10倍になれば、好業績がさらに続くことを前提に買う人も増えます。利益が実際に伸びていても、投資家が予想するほど長く高い販売価格が続かないと考えられれば、株価は下がり得ます。「会社が成長しているのに株価が下がる」ことは矛盾ではありません。
また、記事で見かける証券会社の「目標株価」は、アナリストが一定の業績や評価倍率を想定して算出する見通しです。例えば12万6,000円という数字が示されても、その時点の業績予想やメモリ価格の前提が変われば見直されます。目標株価と市場価格との差額が、そのまま将来の利益になるわけではありません。2026年7月に目標株価12万6,000円が示された経緯については、ファイナンシャルフィールドの解説記事でも紹介されています。
業界の将来は明るい?需要と供給を両方見る
AI向けデータセンターで使う企業向けSSDには、需要拡大の見通しがあります。調査会社TrendForceは、2026年7~9月期の後も北米クラウド事業者による企業向けSSDの調達が強く、10~12月期にも注文や価格の上昇が続く可能性を指摘しています。キオクシアもAIの推論用途に合うSSD製品を開発しています。参考:TrendForce・2026年9月の企業向けSSD市場見通し。
一方、TrendForceは、2026年のNAND市場は供給不足でも、2027年後半には増産や製造技術の進歩で不足が和らぐと予測しています。スマートフォンやノートPC向けの需要も市場全体に影響します。AI向けの一分野が成長していても、業界全体で供給が増えすぎれば価格が下がり、メーカーの利益は減り得ます。成長市場への参加と、安定した利益の確保は分けて考える必要があります。参考:TrendForce・2027年のNAND需給見通し。
キオクシアとサンディスクは、政府支援を条件として、2032年までに日本国内で約5兆円の投資を見込むと発表しました。需要が続けば供給力と技術力を高める材料になりますが、大型の設備投資は、将来の需要や価格が想定を下回った場合の負担にもなります。約5兆円をキオクシア単独の確定支出と読み違えないようにしましょう。参考:キオクシアとサンディスクの共同発表。
現在の55,780円は適正株価なのか
「明らかに安い」とも「必ず高い」とも断定できません。 理由は、どの時期の利益を基準にするかで、株価収益率(PER)が大きく変わるためです。PERとは株価を1株当たりの年間利益で割った数字で、「現在の利益の何年分で株が取引されているか」を大まかに見る指標です。ただし、利益が増減する企業では過去のPERだけで割安・割高を決められません。
2026年3月期に実際に稼いだ1株利益は約1,024円でした。株価55,780円をこれで割るとPERは約54.5倍です。一方、2026年4~6月期の1株利益は約1,540円。会社は続く7~9月期の1株利益を約2,317円と予想しています。直近の利益を見れば昨年度よりかなり大きく改善していますが、四半期の利益を単純に4倍して「これが来年も続く」と考えるのは危険です。会社の最新の第1四半期資料では第2四半期の見通しを公表しており、その先について同じ利益水準を保証していません。参考:2026年3月期決算短信、2027年3月期第1四半期決算短信。
仮に、将来の年間1株利益に「PER10倍」という便宜上の同じ倍率を付けると、次のようになります。これは値上がり予想でも証券会社の目標株価でもありません。現在の株価が、どの程度の利益を前提とするかを見るための計算です。
| 仮に維持できる年間1株利益 | 仮にPER10倍で計算した価格 | 55,780円との比較 |
|---|---|---|
| 3,000円 | 30,000円 | 現在値より低い |
| 5,000円 | 50,000円 | 現在値に近い |
| 7,000円 | 70,000円 | 現在値より高い |
この計算では、年間1株利益が約5,578円なら、株価55,780円はPER10倍です。つまり現在の価格を控えめな利益倍率で支えるには、昨年度実績の1,024円を大きく超える利益が必要です。PERを何倍とみるのが妥当かも市場環境で変わります。利益5,000円にPER10倍を当てはめた結果を「適正価格5万円」と決めつけることはできません。
今の株価が合理的に見える場合
AIデータセンター向けの旺盛な注文が続き、SSDの販売価格が高い水準を維持し、設備投資を行いながら安定して利益と現金を生み出せる場合です。このときは高値から下落した現在の価格にも、将来の利益から見た根拠が生まれます。ただし、ここまで述べた将来条件はいずれも予測であって確定していません。
今の株価でも高いと考えられる場合
競合の増産や需要の鈍化によってメモリ価格が下がり、2026年の非常に高い利益が一時的だった場合です。たとえAI向けの出荷数量が伸びても、価格下落が大きければ利益は減り、PERの分母が小さくなります。「高値から半値」でも、将来の利益を基準にすると割高な可能性があります。
私の現時点の評価は、成長余地は大きいが、販売価格の持続を強く織り込んだ、慎重に扱うべき株価です。絶対的な「適正株価」を1円単位で示すだけの確実な材料はありません。保守的に見るなら、次の決算で販売価格と利益見通しを確認してから判断しても遅くありません。
買う前に確認したい5つの数字
①平均販売価格と出荷量。 売上が増えた理由が値上がり中心か、記憶容量ベースの出荷増も続いているかを見ます。会社資料に正確な単価が開示されていない場合は、会社説明と業界資料を使い、推測を事実として扱わないようにします。
②SSD・ストレージ部門の売上。 AI向け投資がキオクシアの実際の販売につながっているか、用途別の数字を確かめます。同じ項目で四半期ごとに比較することが大切です。
③営業利益と現金の増減。 利益が伸びても、設備投資や運転資金が増えれば手元に残る現金は変わります。利益の数字だけではなく、営業キャッシュフロー、投資支出、借入れの状況も確認します。
④2027年の供給増と競合の動き。 業界全体の供給が需要より速く伸びると、価格への下押し圧力が生じます。メモリ市況は企業単独の努力では決まりません。
⑤自分の資産に対する購入額。 2026年9月25日終値で100株は約558万円です。株価が30%下落すると、100株の評価額は約167万円減ります。企業の将来に期待することと、家計がその値動きに耐えられることは別です。10月の株式分割後も、買う株数と購入額を確認しましょう。
まとめ:成長を信じるなら、利益が続く条件を見極めたい
キオクシア株が注目されたのは、単なる「AI関連」という名前だけが理由ではありません。AI向けデータセンター需要とメモリ価格上昇によって、実際に売上と利益が急増しました。その一方で、メモリ業界は需給による価格変動が大きく、2027年には供給不足が和らぐという業界予測もあります。
9月25日終値55,780円は、高値から半値という理由だけでは割安と判断できません。 高い利益が今後も続けば評価できる余地がある一方、販売価格が落ちれば現在値でも高い可能性があります。目標株価への期待だけで飛びつく前に、次の決算で価格、出荷量、利益、設備投資を確認し、自分が許容できる購入額を決めることが現実的です。
参考資料・確認日: 2026年9月27日。キオクシア・2026年3月期決算短信/キオクシア・2027年3月期第1四半期決算短信/キオクシア・成長戦略/キオクシア・株式分割/TrendForce・企業向けSSD/TrendForce・NAND需給/株価データ。この記事は情報提供であり、個別の売買を勧めるものではありません。




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