【初心者向け】使用済み核燃料はどこへ行く?なぜ地中に埋める必要があるのかを徹底解説
原子力発電所の再稼働ニュースが続くなか、こんな疑問を感じたことはありませんか?
「使用済み核燃料って、今どこにあるの?」
「もう何十年も原発を動かしてきたなら、処分方法はとっくに決まっているんじゃないの?」
実は、日本の原子力政策の中でもっとも解決が難しい問題のひとつが、この「使用済み核燃料の最終処分問題」です。技術的な話だけでなく、地域住民との合意形成や政治的な判断が絡み合い、世界中の国々が頭を抱えています。
この記事では、専門知識がなくても理解できるよう、使用済み核燃料の基礎知識から日本と世界の最新動向まで、できるだけわかりやすく解説していきます。
そもそも「使用済み核燃料」とは何か?
原子力発電の燃料の仕組み
原子力発電所では、「ウラン」という物質を燃料として使って電気を作っています。ウランは、原子核が分裂するときに膨大な熱を発生させる性質を持っており、この熱でタービンを回して発電します。
ウラン燃料は小さなペレット(錠剤のような形)として作られ、それを細い金属管に詰めた「燃料棒」にします。燃料棒を何百本も束ねたものが「燃料集合体」で、これを原子炉の中に入れて使用します。
「使用済み」になるとはどういうことか?
燃料棒は原子炉の中で3〜5年ほど使われると、ウランが消費されて発電効率が落ちてきます。効率が落ちた燃料は取り出して新しいものと交換しますが、この取り出した燃料のことを「使用済み核燃料」と呼びます。
ここで大切な点があります。使用済み核燃料は、ただ効率が落ちただけで「無害になった」わけではありません。むしろ、使用後のほうが危険な側面があります。
なぜ危険なのか?
原子炉の中で核分裂を繰り返したウランの残りかすには「核分裂生成物」と呼ばれる放射性物質が大量に含まれています。これらは非常に強い放射線(主にベータ線・ガンマ線)を出し続けます。
また、使用直後は発熱量も非常に大きく、冷却しないと燃料自体が溶けてしまう危険性があります。2011年の東日本大震災・福島第一原発事故では、この冷却が止まったことが深刻な事態につながりました。
使用済み核燃料は今どこにあるのか?
現状:ほとんどが「一時保管中」
多くの人が想像しているような「最終処分場にきれいに埋められている」状態とは程遠く、現在の日本では使用済み核燃料の大半が一時的な保管状態にあります。
主な保管方法は以下の2種類です。 保管方法 内容 特徴 湿式貯蔵(燃料プール) 原発内の大きな水槽に沈めて保管 冷却と放射線遮蔽を同時に行える 乾式貯蔵 金属製の容器(キャスク)に入れ空冷で保管 電源不要で安定・長期保管向き
現在、日本国内の使用済み核燃料の貯蔵量は、2024年12月時点で16,880トンにのぼり、国内の貯蔵管理容量(約21,790トン)の77%以上をすでに占めています。
つまり、あと2割ほどしか余裕がない状態です。原発の再稼働が進めば、この容量はさらに逼迫します。
燃料プールが満杯に近づいている問題
各原発の燃料プールは「いっぱいになったらそれ以上運転できない」という制約があります。現在は、プール内の収納ラックをより効率的なものに交換したり(リラッキング)、敷地内に乾式貯蔵施設を追加するなどの対策で対応していますが、これも根本的な解決策ではありません。
青森県むつ市の中間貯蔵施設が2024年に稼働
一つの前進として、青森県むつ市に設置されたリサイクル燃料貯蔵(RFS)の乾式中間貯蔵施設が、2024年11月に事業を開始しました。最長50年間の保管を想定した施設ですが、あくまで「中間」であり、最終処分ではありません。
昔、海外へ持って行っていたのでは?
再処理委託の歴史
実は、日本は過去にイギリスやフランスに使用済み核燃料の「再処理」を委託していました。再処理とは、使用済み燃料からまだ使えるウランやプルトニウムを取り出して再利用するための工程です。
これは「捨てる」のではなく、「資源として再利用する」という考え方です。日本のエネルギー政策の基本方針である「核燃料サイクル政策」の一部として実施されていました。
再処理後の廃棄物は返還される
ここで重要なのが、再処理の後に必ず残る「高レベル放射性廃棄物」の扱いです。海外で再処理を行っても、その廃棄物を海外に置いておくことはできません。国際的なルールのもと、再処理後の高レベル放射性廃棄物は日本に返還されます。
使用済み燃料は再処理工場でウランとプルトニウムが回収され、残った廃液はガラスに溶かし込んで「ガラス固化体」にされます。このガラス固化体が「高レベル放射性廃棄物」と呼ばれるものです。
現在、このガラス固化体は青森県六ケ所村の日本原燃施設で保管されていますが、最終的な処分先はまだ決まっていません。
国内の再処理工場(六ケ所村)も長年の遅れ
日本は国内でも青森県六ケ所村に再処理工場を建設しましたが、1997年の完成予定から度重なる安全審査・設備トラブルにより稼働が大幅に遅れています。この工場が本格稼働しないことで、使用済み核燃料の「出口」が詰まった状態が続いています。
なぜ地下深くに埋めるのか?「地層処分」の仕組み
地層処分とはどんな方法か?
日本政府が最終処分方法として採用しているのが「地層処分」です。
地層処分とは、高レベル放射性廃棄物を金属の入れ物や緩衝材で覆い(人工バリア)、地下深くの安定した岩盤の300メートル以上深いところに埋める方法です(天然バリア)。
地面の下300メートルといえば、東京スカイツリー(634m)の約半分の深さです。これだけの深さまで掘り下げた岩盤の中に処分施設を作り、そこに廃棄物を閉じ込めるという大規模なプロジェクトです。
なぜ「地上管理」ではなく「地下に埋める」のか?
素朴な疑問として「地上の施設で管理し続けた方がいいのでは?」と思う人もいるでしょう。しかし、地層処分が選ばれる理由があります。
放射線が十分に弱まるまでの時間スケール
高レベル放射性廃棄物の放射能が現在の天然ウランと同程度まで低下するには、数万年かかると言われています。人間の文明の歴史が約1万年ですから、それをはるかに超える期間、安全に管理しなければなりません。
これほど長い期間、人間が地上施設を安定して管理し続けることは現実的に不可能です。言語も変わり、国家そのものがなくなる可能性もあります。一方、地下深くの安定した岩盤は数億年単位で変化がなく、人間の管理に頼らず自然の力で閉じ込め続けることができます。
多重バリアによる安全設計
地層処分では、一つの対策だけに頼るのではなく、複数の「バリア」を組み合わせる多重防護の考え方を採用しています。
- ガラス固化体:廃棄物をガラスに溶かし込んで固め、放射性物質を閉じ込める
- 金属容器(オーバーパック):腐食に強いステンレスや鉄製の容器に入れる
- 緩衝材(ベントナイト):粘土鉱物で周囲を覆い、地下水の侵入を防ぐ
- 岩盤(天然バリア):地下300m以上の安定した地層そのものが最後の砦
これら4つのバリアが多重に機能することで、万が一一つが壊れても次のバリアで対処できる設計になっています。
世界ではどんな取り組みが進んでいるのか?
フィンランド:世界で最も先進的な取り組み
地層処分の分野でもっとも知られているのが、フィンランドの「オンカロ処分場」です。
フィンランドでは、原子力企業が全国約100カ所を調査候補地域として選定したうえで調査に応じる自治体を募り、2000年に南西部のオルキルオト島の最終処分場(オンカロ)の活用が決まりました。地元住民には積極的な情報開示や小規模な対話集会を繰り返し、最終的には地元住民の多くが受け入れに賛成したといいます。
フィンランドが成功した背景には、国民全体に「原子力発電を使う以上、廃棄物の責任も自分たちが負う」という意識が根づいていたことが大きいとされています。
スウェーデン・フランス・カナダなど
フィンランド以外にも多くの国が地層処分の実現を目指しています。スウェーデンでも処分地の選定が完了し、建設準備が進んでいます。フランスも地下研究所での調査を経て候補地の絞り込みを行っています。
一方、アメリカはネバダ州ユッカマウンテンへの処分場建設計画を政治的な理由で中断するなど、技術的な課題より政治・社会的な課題の方が大きいという実態は万国共通です。
日本の現状:候補地選定はどこまで進んでいるか?
NUMOによる選定プロセス
日本では「NUMO(ニューモ:原子力発電環境整備機構)」が最終処分地の選定を担っています。選定は以下の3段階のプロセスで進められます。 段階 内容 期間 ① 文献調査 地質図・学術論文などの既存データをもとに机上で調査 約2年 ② 概要調査 実際に地表や浅い場所でのボーリング調査などを実施 約4年 ③ 精密調査 地下施設を建設して詳細な地質調査を実施 約14年
この3段階で合計約20年かけて処分地を絞り込む計画です。
北海道の2町村:文献調査が完了
2020年10月、北海道寿都(すっつ)町が文献調査への応募を表明し、神恵内(かもえない)村が国からの調査の申し入れを受諾して、同年11月から両町村で文献調査が行われています。
文献調査の結果、調査対象となったエリアの全域が、次のステップの「概要調査」に進む場合の調査対象候補となりました。2025年1月末時点で、寿都町では17回、神恵内村では20回の対話が実施されています。
ただし、寿都町の周辺地層には断層帯が横たわり、神恵内村の近くには火山があるなど、核のごみの処分地には向いていないという専門家の指摘も少なくありません。
また、北海道の鈴木直道知事は当初「札束で頬をたたくやり方だ」と国やNUMOを批判し、調査について「現時点で反対」の立場を示しました。地元の反発は根強く、概要調査への移行はまだ決まっていません。
佐賀県玄海町:2024年から文献調査開始
2024年6月には佐賀県玄海町でも文献調査が始まりました。玄海原子力発電所が立地する町であり、原発との共存に理解がある地域として注目されています。
最新情報:南鳥島(東京都小笠原村)が新たな候補に
2026年に入り、大きな動きがありました。
2026年3月3日、経済産業省は原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場を巡り、小笠原諸島の南鳥島での文献調査を東京都小笠原村に申し入れました。調査が実施されれば国内で4カ所目となります。
さらに、2026年4月13日、小笠原村の渋谷正昭村長が南鳥島での文献調査を容認する意向を表明し、「国が主体的にかつ責任をもって判断すべきだ」と述べました。
南鳥島は日本最東端に位置する絶海の孤島で、人が定住していないため住民感情の問題が少ないとも言われています。一方で、海洋生態系への影響や、陸続きでないため搬入が困難といった技術的課題も指摘されています。
全国47知事アンケートの衝撃的な結果
2026年6月に明らかになった報道によると、全国47都道府県知事へのアンケートで、核のごみ処分施設の受け入れにゼロ回答という結果が出ています。自治体の首長がいかに難しい立場に置かれているかを示す結果です。
なぜ日本では候補地選びが進まないのか?
技術的には「地層処分は実現可能」と国も専門家も認めています。では、なぜ日本では候補地の選定がこれほど難しいのでしょうか?
「NIMBY問題」とは何か?
「NIMBY(ニンビー)」とは「Not In My Back Yard(自分の裏庭には作るな)」の略で、必要性は認めるが自分の地域には来てほしくないという意識のことです。
使用済み核燃料の処分場は、誰もが「必要だ」と認識しつつも、自分の地域に候補地になることを歓迎する人はほとんどいません。これはある意味、人間として自然な感情です。
住民が抱える不安の正体
地域住民が不安を感じる主な理由は以下の通りです。
安全への不安
- 地震・火山が多い日本で、本当に数万年間安全か?
- 地下水が汚染されないか?
- 万が一漏れたときの対処はできるのか?
風評被害への懸念
- 「核のごみ捨て場がある地域」というイメージがつかないか?
- 農産物・水産物の風評被害につながらないか?
- 観光への影響は?
情報不信
- 国や電力会社の説明を信頼してよいのか?
- 福島の事故後、国の説明を額面通りに受け取れない
これらの不安は、科学的なデータだけでは解消できない側面があります。フィンランドが成功したように、時間をかけた丁寧な対話と信頼醸成が欠かせません。
地震大国・日本という特有の難しさ
日本は世界的にも地震・火山活動が活発な地域です。「地震が多い日本に、数万年安全な地層処分場など作れるのか」という疑問は、専門家の間でも真剣に議論されています。
実際、寿都町や神恵内村でも地質的な問題が指摘されており、候補地の適性評価は難航しています。日本の地質的な複雑さは、フィンランドやスウェーデンのような安定した地盤を持つ国々とは異なる困難を生んでいます。
核燃料サイクル政策の現状と課題
「使って、再処理して、また使う」というサイクルの理想
日本のエネルギー政策の柱の一つに「核燃料サイクル」があります。これは、使用済み核燃料を「廃棄物」として処分するのではなく、再処理してプルトニウムを取り出し、「MOX燃料」として再利用するというものです。
再利用できれば廃棄物の量を減らせますし、ウランの輸入依存度を下げるエネルギー安全保障の観点からも意義があります。
現実:サイクルは止まったまま
しかし現実には、核燃料サイクルは機能していません。
- 六ケ所村の再処理工場は長年にわたり稼働遅延
- 高速増殖炉「もんじゅ」は2016年に廃炉決定
- プルサーマル(MOX燃料使用)は一部原発でしか実施されていない
核燃料サイクルが機能しないことで、使用済み核燃料の「出口」が詰まり、各原発の貯蔵プールがひっ迫している状況につながっています。
原発を使い続けることの「責任」とは何か
すでに存在する廃棄物から逃げられない
原発の賛否については様々な意見があります。しかし一点、賛否を超えて共通する事実があります。
すでに大量の使用済み核燃料が存在しているという現実です。
原発を今すぐすべて停止したとしても、これまでに蓄積された使用済み核燃料の処分問題は消えません。むしろ、廃炉作業に伴ってさらに廃棄物が発生します。
「将来世代への先送り」という問題
最終処分地が決まらないまま時間が経つということは、この問題を未来の世代に先送りすることを意味します。数万年後の人々に「危険なごみを管理してください」と言い残すことが果たして許されるのか、という倫理的な問いがここにあります。
フィンランドでは「自分たちの電気は自分たちで責任を取る」という社会的な合意があったからこそ、オンカロが実現しました。日本でも、そのような社会的な議論と合意形成が必要な段階に来ています。
エネルギー政策全体を考える視点
使用済み核燃料問題を考えるとき、原子力だけを切り取って論じるのは難しい面があります。
再生可能エネルギーの普及が進む一方で、電力の安定供給や脱炭素化という課題の中で原子力をどう位置づけるか、その判断が廃棄物問題の解決策とも連動しています。
エネルギーを使うすべての人が、この問題の当事者です。
まとめ:使用済み核燃料問題の全体像
ここまでの内容を整理します。
現状のポイント
- 使用済み核燃料は現在、各原発の貯蔵プールや乾式貯蔵施設で一時保管中
- 国内貯蔵量は約16,880トン(管理容量の77%超)で、ひっ迫が続く
- 最終処分地はまだ決まっておらず、候補地選定が最大の課題
最終処分(地層処分)のポイント
- 地下300m以上の安定した岩盤に埋める方法が世界共通の基本方針
- 放射線が十分弱まるまで数万年かかるため、人間管理ではなく地層に頼る
- 多重バリアで安全性を確保する設計
日本の動向
- 北海道寿都町・神恵内村で文献調査が完了し、概要調査への移行を協議中
- 2024年から佐賀県玄海町でも文献調査開始
- 2026年3月、東京都小笠原村・南鳥島に文献調査を申し入れ(村長が容認表明)
- 全国47知事アンケートでは、受け入れ意向ゼロという厳しい現実も
社会的な課題
- NIMBY問題:必要性は認めても自分の地域には来てほしくない
- 地震・火山活動が多い日本特有の地質的課題
- 国・電力会社への不信感と、丁寧な対話の必要性
- 将来世代への先送りは許されないという倫理的問い
原子力発電をめぐる議論では「賛成か反対か」が注目されがちですが、すでに存在する使用済み核燃料をどう安全に管理するかという問題は、私たち全員が向き合わなければならない課題です。
電気を使うすべての人が、この問題の当事者であることを忘れないようにしたいものです。
この記事が参考になりましたら、ぜひSNSでシェアしていただけると嬉しいです。




コメント