北村晴男弁護士・参議院議員が国会で取り上げているテーマの一つが、外国人に対する生活保護です。SNS動画では「72年間、誰も止めなかった」「外国人への生活保護は法律ではなく通知で続いている」といった強い表現が使われています。しかし、正確に理解するためには、「現在の法律」「行政の運用」「北村議員の政策的な主張」を分けて考える必要があります。
先に結論
日本人と外国人では、生活保護を受けるための法的な立場が異なります。
比較項目
日本人
一定の外国人
法的根拠
生活保護法
1954年の旧厚生省通知
法律上の権利
ある
生活保護法上の権利としては認められていない
実際の支援
要件を満たせば生活保護
日本人に準じた保護措置
資産・収入調査
ある
原則として同様にある
働ける場合
能力に応じた就労が求められる
原則として同様
親族などからの援助
援助可能性を確認
原則として同様
外国特有の確認
なし
在留カード・在留資格・本国からの援助可能性など
不支給への不服申立て
生活保護法上の処分として争える
同じ形では争えない場合がある
つまり「外国人だけが無条件で生活保護を受けられる」という制度ではありません。一方で、日本人には生活保護法に基づく権利があるのに対し、外国人への支援は行政上の措置として行われているという大きな違いがあります。
日本人に対する生活保護制度
生活保護法第1条は、国が「生活に困窮するすべての国民」に必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障することを目的としています。そのため、日本国籍を持つ人が要件を満たした場合、生活保護を受けることは法律上の権利です。
ただし、日本人であれば誰でも簡単に受給できるわけではありません。原則として世帯単位で審査され、預貯金、保険、不動産、自動車、収入、年金、手当、働く能力などが調査されます。働ける人には能力に応じた就労が求められ、利用できる年金や手当がある場合は、まずそれらを利用します。
そのうえで、国が定める最低生活費より世帯収入が少ない場合、その不足分が保護費として支給されます。例えば最低生活費が月15万円と認定され、収入が月5万円なら、単純化すると差額の10万円が支給対象になります。実際の金額は年齢、世帯人数、居住地域、家賃などによって異なります。厚生労働省「生活保護制度」
なお、親族に相談してからでなければ生活保護を申請できないわけではありません。必要な書類が全部そろっていない人、持ち家がある人、住居がない人でも申請そのものは可能です。
外国人は生活保護法の対象なのか
現在の生活保護法は「国民」を対象としているため、外国人は生活保護法の直接の対象ではないと解釈されています。これは「外国人に何の支援もしない」という意味ではありません。
1954年5月8日、当時の厚生省は「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」という通知を都道府県知事に出しました。この通知には、外国人は生活保護法の対象ではないものの、「当分の間」、生活に困窮する外国人に対し、日本人の生活保護に準じた保護を行うことが示されています。厚生労働省「昭和29年通知」
この通知が、2026年現在も外国人に対する保護措置の基本的な根拠になっています。1954年から2026年までで72年になるため、動画では「72年間続いている」と説明されているのです。
すべての外国人が対象になるわけではない
「外国人なら来日直後から誰でも生活保護を受けられる」という説明は正確ではありません。実務上は、日本国内で長期的・安定的に生活する立場にある一定の外国人が主な対象です。
代表的な対象として、永住者、特別永住者、定住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、難民認定を受けた人などが挙げられます。観光目的の短期滞在者や、一般的な就労・留学などの在留資格を持つ外国人が、当然に同じ措置の対象になるわけではありません。
申請の際には、有効な在留カードまたは特別永住者証明書を提示し、カードに記載された住所を管轄する福祉事務所などに申請します。行政は国籍、在留資格、家族構成、収入、資産、就労状況などを調べます。
さらに1954年の通知では、都道府県が、その外国人の所属国の大使館や領事館などから援助を受けられないか確認する手続も示されています。ただし、通知の歴史的な経緯などから、一部については異なる取り扱いも定められています。
日本人と外国人に共通する審査
外国人に対する保護も、日本人の場合に準じて実施されます。そのため、基本的には次のような点が調査されます。
- 世帯全体の収入
- 預貯金や不動産などの資産
- 年金や各種手当
- 働くことができるか
- 親族などから援助を受けられるか
- 生活状況や家族構成
- 自動車や保険などの保有状況
外国人だけが資産調査を免除されたり、日本人より多額の生活保護費を受け取れたりする仕組みではありません。支給額も基本的には、日本人と同じ最低生活費の基準に準じて計算されます。
生活扶助、住宅扶助、教育扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助なども、日本人への生活保護に準じて実施されます。生活保護受給者の医療扶助は、原則として医療機関へ直接支払われ、本人の窓口負担はありません。これは日本人受給者にも外国人受給者にも共通する運用です。
最大の違いは「法律上の権利」かどうか
日本人の場合、生活保護は法律上の権利です。申請を拒否されたり、保護を不当に打ち切られたりしたと考える場合には、審査請求や行政訴訟などによって処分を争うことができます。
一方、外国人への保護は生活保護法に基づく給付ではなく、通知に基づく行政措置とされています。裁判例でも、永住資格のある外国人であっても、生活保護法の直接の適用対象ではないとの判断が示されています。裁判所の判決資料
したがって、外国人は日本人とほぼ同じ内容の支援を受ける場合があっても、その支援を生活保護法上の権利として要求できる立場ではありません。ここが、日本人と外国人の最も大きな違いです。
北村晴男議員は何を問題にしているのか
北村議員が主に問題視しているのは、困窮者を助けること自体というより、外国人への大規模な公的支援が、国会で制定された法律ではなく、1954年に出された行政通知を根拠として72年間続いている点です。
2026年3月24日の参議院法務委員会では、「通知に基づき外国人について生活保護に準じた取り扱いをしている現状に対する政府の認識」を質問しています。参議院の公式資料にも、この質疑項目が記録されています。参議院法務委員会・質疑項目
北村議員の問題意識を分かりやすく整理すると、次のようになります。
1.国会を通していない通知で続けてよいのか
生活保護は税金を財源とする重要な社会保障制度です。その対象に外国人を含めるのであれば、一人の局長が出した通知ではなく、国会で議論して法律として決めるべきではないか、という主張です。
2.1954年と現在では状況が違う
通知が出された1954年と現在では、在留外国人数、在留資格の種類、日本の財政状況、社会保障制度、国民負担率などが大きく異なります。北村議員は、72年前の「当分の間」という対応を、そのまま続けることに疑問を示しています。
3.日本人への保障を優先すべきではないか
北村議員は、憲法や生活保護法が日本国民の最低限度の生活を保障している以上、限られた税金は、まず日本国民の生活保障に使うべきだという立場です。
4.外国人の生活保障は本国も負担すべきではないか
外国人が生活できなくなった場合、日本だけが生活費や医療費を負担するのではなく、本国政府、大使館、民間保険、雇用主などにも責任を求める制度にすべきだという考え方です。
5.法律で明確に決めるべきではないか
北村議員の主張は、単純に「外国人を助けるな」という話だけではありません。支援を継続する場合でも、対象となる在留資格、期間、審査方法、財源、本国との負担関係などを、国会で議論して法律に明記するべきだという法治国家としての手続論が中心にあります。
北村議員の主張どおりなら、どのような制度になるのか
北村議員の発言を政策として整理すると、外国人に対する現在の保護措置を見直し、次のような方向を検討すべきだという考え方になります。
- 日本人への生活保障を優先する
- 外国人への支援対象を法律で明確に限定する
- 在留資格や在留期間を厳格に確認する
- 本国政府や大使館からの支援を先に求める
- 雇用主や身元保証に関する責任を明確にする
- 民間の医療保険や生活保障制度を活用する
- 不正受給や虚偽申告への調査を強化する
- 長期間自立できない場合の在留制度との関係を検討する
- 外国人への給付額や人数を国民に分かりやすく公開する
ただし、これらは北村議員による問題提起や政策的な主張であり、すべてが現在の法律として実施されているわけではありません。
帰化取り消し制度についての主張
北村議員は同じ法務委員会で、外国人の生活保護だけでなく「帰化を取り消す制度を検討する必要性」についても質問しています。
帰化とは、外国籍の人が日本国籍を取得する制度です。帰化した人は法的には日本人となるため、外国人ではありません。当然、生活保護についても日本人として生活保護法の対象になります。
北村議員は、虚偽の申請や重大な不正によって帰化したことが後から判明した場合に、帰化を取り消せる制度を設けるべきではないかと問題提起しています。ただし、いったん日本国籍を取得した人の国籍を取り消すことは、無国籍になる可能性や法的安定性、人権保障などの重大な問題を伴います。そのため、導入する場合には厳格な要件と慎重な国会審議が必要です。
「外国人は生活保護を受けているから違法」は誤り
最高裁判決によって外国人が生活保護法の直接の対象ではないと示されていても、現在行われている外国人への支援が直ちに違法になるわけではありません。
現在の支給は、生活保護法を外国人に直接適用しているのではなく、1954年の通知に基づく行政措置として、日本人に準じた保護を行うという仕組みです。したがって、「最高裁が違法と判断したのに国が無視して支給している」という説明は正確ではありません。
正確には、次のように整理できます。
外国人には生活保護法に基づいて保護を請求する権利は認められていない。一方、国や自治体は1954年の通知に基づき、一定の外国人に対して生活保護に準じた行政上の保護措置を実施している。
北村議員は、この通知による運用自体を国会で改めて検討し、法律上の根拠や対象範囲を明確にすべきだと主張しているのです。
私たちはこの問題をどう考えればよいのか
この問題は「外国人を助けるか、助けないか」という二択だけで考えると、本質が見えにくくなります。日本で長期間生活し、納税や社会保険料の負担を続けてきた外国人が、病気や失業によって困窮する場合もあります。一方で、税金を使う以上、対象者、在留資格、支給額、審査方法、本国の責任を明確にする必要があります。
人道的な支援が必要な人を放置しないことと、制度の根拠や公平性を厳格に確認することは、両立できます。重要なのは、感情的なSNS投稿だけで判断せず、国会で制度を公開し、日本人と外国人の違いを国民に分かりやすく説明したうえで、法律としてルールを決めることです。
まとめ
日本人の生活保護は、生活保護法に基づく法律上の権利です。一方、一定の外国人には、1954年の旧厚生省通知に基づき、日本人に準じた行政上の保護措置が行われています。実際の資産・収入・就労能力などの審査はおおむね共通していますが、外国人には在留資格や大使館からの援助可能性など、外国人特有の確認があります。
北村晴男議員は、外国人への支援が72年前の行政通知を根拠に続けられていることを問題視し、税金を使う重要な制度である以上、国会で議論して法律で明確に決めるべきだと主張しています。北村議員の発言を理解する際は、「外国人への支援はすべて違法」という意味ではなく、「現在の通知中心の運用を見直し、国民に説明できる法制度に改めるべきだ」という主張として捉えるのが正確です。




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