2027年4月から、日本では新しい外国人就労制度「育成就労制度」が始まります。これまで長く使われてきた技能実習制度に代わり、外国人を原則3年間働かせながら日本語と技能を身につけてもらい、その後は特定技能1号へ進める人材を育てる仕組みです。その準備が各国との間でも進んでおり、2026年10月17日、日本政府とバングラデシュ政府の間で育成就労制度に関する協力覚書、いわゆるMOCが締結されました。外国人技能実習機構は10月20日に正式に公表しており、厚生労働省などの公式資料からも内容を確認できます。 今回の覚書を見ると、単純に「バングラデシュから外国人労働者を増やす」というだけの内容ではありません。誰が外国人を日本へ送り出せるのか、本人にいくらまで費用を負担させられるのか、保証金や違約金を取ってはいけないこと、旅券を取り上げてはいけないこと、妊娠・出産を理由に帰国を強制してはいけないこと、失踪や不法滞在が発生した場合にどう対応するのか、帰国用の旅券がない場合にバングラデシュ政府がどう協力するのかなど、かなり細かい部分まで定められています。つまり今回の覚書のポイントは、「外国人を何人入れるか」ではなく、外国人を送り出す段階から日本で働き、問題が起き、最終的に帰国するところまでを二国間で管理しようとしていることです。今回は、この日本・バングラデシュ間の協力覚書について、これまでの技能実習制度では何が問題だったのか、育成就労制度になって何が変わるのか、悪質な仲介業者を本当に減らせるのか、本人負担を月給2か月分以下に制限するルールは十分なのか、犯罪歴確認や失踪・不法滞在対策は実際に機能するのかまで、初心者でも分かるように整理します。
まず今回何が決まったのか
今回締結されたのは、日本とバングラデシュの間の「育成就労制度に関する協力覚書」です。日本側では法務省、外務省、厚生労働省、警察庁が関係し、バングラデシュ側の関係機関との間で協力内容を定めています。日本側の署名は2026年9月16日に東京で行われ、バングラデシュ側は10月17日にダッカで署名し、最後の署名が行われた時点から協力が始まる仕組みになっています。協力期間は原則5年間で、終了を希望する通知がなければさらに5年間自動延長されます。
ただし、ここで一つ誤解しないようにしたい点があります。この覚書によって「バングラデシュ人を〇万人日本へ受け入れる」と決まったわけではありません。育成就労の受入れ人数は産業分野ごとの受入れ見込数によって管理されます。ある分野で受入れ人数が見込数を超えた場合、日本側は育成就労計画の認定を一時停止できることも覚書に明記されています。 したがって、この覚書は大量受入れを決める文書というより、バングラデシュから育成就労外国人を受け入れる場合のルールブックを両国で作ったと考えた方が分かりやすいでしょう。
そもそも、なぜ国同士で覚書を結ぶ必要があるのか
ここを理解するには、技能実習制度で起きてきた問題を見る必要があります。外国人が日本へ働きに来る場合、本人が求人サイトを見て直接日本企業へ応募するとは限りません。母国側には「送出機関」と呼ばれる事業者が存在し、日本で働きたい人を募集し、必要な手続きや日本側の受入れ機関との調整を行います。この仕組み自体は悪いものではありません。しかし、間に入る業者が多すぎたり、本人から高額な仲介手数料を取ったり、保証金を預かったり、「途中で会社を辞めたら違約金を払え」と契約させたりする問題が起きてきました。来日前に何十万円、場合によってはそれ以上の借金を背負って来日すれば、本人は日本で職場に問題があっても簡単に辞められません。借金返済のために長時間働き、賃金が低くても我慢し、最終的に職場から失踪するという悪循環にもつながります。育成就労制度ではこうした問題を減らすため、送出国政府が認めた機関を中心に人材を送り出す仕組みを整え、政府同士で情報共有する方向に変えようとしています。
バングラデシュ政府が認定した送出機関が基本になる
今回の覚書では、日本側は原則としてバングラデシュ政府が認定した送出機関から育成就労外国人を受け入れることになります。つまり、「誰でも日本向けの人材紹介業を始められる」という仕組みではなく、バングラデシュ政府が適切と認めた事業者に絞るということです。これは悪質業者を排除するうえで重要です。認定送出機関が違反を行えば、バングラデシュ側で認定取消しなどの措置を取れる仕組みになります。日本側でも問題のある送出機関について情報を共有し、改善を求めたり、場合によっては受入れを止めたりすることができます。今までの制度では、外国人本人が悪質な業者と契約していても、日本に来てから初めて問題が分かることがありました。新制度では出国前の段階から政府同士で管理する考え方が強くなります。
保証金・違約金は禁止
今回の覚書で特に重要なのが、外国人本人から保証金を取ったり、違約金契約を結ばせたりする行為への規制です。例えば、「日本で3年間働けば保証金を返します」「途中で会社を辞めたら50万円払ってください」という契約があれば、外国人は職場で問題があっても辞めにくくなります。このような仕組みは実質的に外国人を職場へ縛り付けることにつながります。育成就労制度では本人希望による転籍を条件付きで認めるため、こうした違約金契約との相性は最悪です。そのため今回の覚書でも、保証金徴収や違約金契約などを行う送出機関を認定取消しの対象にする方向が明確にされています。
旅券を取り上げる行為も問題になる
さらに、外国人本人の旅券を本人の意思に反して取り上げるような行為も防止対象です。旅券は海外で本人の身分を証明する非常に重要な書類です。これを会社や仲介業者が管理してしまえば、本人は自由に移動したり、必要な行政手続きをしたりすることが難しくなります。技能実習制度でも旅券や在留カードの取上げは問題になってきました。育成就労制度では外国人本人の権利保護を強化し、こうした行為をより明確に排除する方向です。
本人が払う費用は「月給2か月分以下」
今回かなり注目したいのが、バングラデシュ側の送出機関が外国人本人から徴収する費用について、原則として育成就労計画に記載された月額報酬の2か月分以下とする仕組みです。これは本人が母国で巨額の借金をして日本へ来ることを防ぐ狙いがあります。例えば日本での月給が20万円なら、単純計算では40万円程度が上限の目安になります。ただし、ここで「2か月分以下なら安い」と考えるのは早いでしょう。日本で月給20万円という金額と、バングラデシュ国内で生活する人にとっての40万円の重さは同じではありません。現地の所得水準から見ると、月給2か月分であっても大きな負担になる可能性があります。そのため重要なのは上限を作ることだけではなく、実際に本人が何にいくら支払ったのかを明確にし、領収書を残し、隠れた追加手数料がないかを監視することです。
「2か月分以下」にしても別の名目で取られないか
制度を作ると必ず問題になるのが抜け道です。表向きの送出手数料を2か月分以下にしても、「日本語学校費」「研修費」「書類作成費」「健康診断費」「交通費」「紹介費」など、別の名目で追加費用を請求すれば、実質的な負担が大きくなる可能性があります。そのため本当に制度を機能させるには、単に「送出費用は2か月分まで」と書くだけでは不十分です。外国人本人に支払総額を確認し、日本側の監理支援機関や外国人育成就労機構が実態を把握できる仕組みが必要になります。また、外国人が「高額な費用を請求された」と安心して相談できる窓口も重要です。
妊娠・出産を理由とした解雇・強制帰国を認めない
今回の覚書では、日本人労働者と同様に労働関係法令を適用することに加え、妊娠や出産を理由として外国人を解雇したり、本人の意思に反して帰国させたりしないことも確認されています。これは技能実習制度で過去に問題となってきた部分です。外国人女性が妊娠した場合、「働けないから帰国してください」と言われるケースが問題になりました。しかし日本国内で働く以上、日本の労働法が適用されます。育成就労制度でも外国人だから特別に弱い立場に置いていいわけではありません。こうした点を二国間覚書の中にまで書き込んでいることは、新制度が外国人本人の権利保護を以前より強く意識していることを示しています。
犯罪歴について公的文書を取得できるようにする
今回の覚書では、バングラデシュ側が日本へ来る予定の人について、犯罪歴に関する公的文書を取得できるよう必要な措置を取ることも盛り込まれています。ここは日本国内でも関心が高いテーマです。ただし、「犯罪歴がある人は全員日本へ来られない」という意味ではありません。日本への上陸拒否事由は入管法で定められており、犯罪歴の内容や刑罰などによって扱いが異なります。今回の覚書のポイントは、必要な審査をするための情報を、日本側がより確認しやすくするということです。制度を厳格に運用するためには、「本人が何を申告したか」だけに頼るのではなく、母国政府が発行した公的な証明書を確認できる方が精度は高くなります。
犯罪歴確認だけですべての問題を防げるわけではない
一方、犯罪歴証明を求めれば問題がすべて解決するわけでもありません。犯罪歴がなくても来日後に犯罪を起こす人はいますし、逆に過去に軽微な違反歴があるからといって必ず問題を起こすわけでもありません。必要なのは犯罪歴確認に加えて、日本での生活ルール、労働ルール、日本語教育、相談体制、適切な賃金、地域社会との関係づくりなどです。「入国前審査を厳しくすれば全部解決する」というほど単純ではありません。
失踪・不法滞在が発生したらどうするのか
技能実習制度では「失踪」が大きな問題になってきました。外国人が受入れ企業から突然いなくなり、そのまま不法就労や不法残留につながるケースがあります。原因は一つではありません。高額な借金、低賃金、長時間労働、ハラスメント、本人の転職希望、より高い賃金を求める行動、仲介業者の勧誘など、さまざまです。育成就労制度では本人希望による転籍を一定条件で認めることで、「会社を変えたいなら失踪するしかない」という状況を減らす狙いがあります。さらに今回の覚書では、失踪、不法滞在、送還などが問題になった場合に日本とバングラデシュ両政府が協力する仕組みを定めています。
旅券がなくてもバングラデシュ側が帰国に協力
退去強制や自主帰国を進めようとしても、本人が有効な旅券を持っていなければ帰国手続が難しくなることがあります。今回の覚書では、そのような場合にバングラデシュ政府が臨時旅券などの発給に協力する内容が盛り込まれています。外国人の受入れ政策では「入国させる仕組み」だけでなく、「帰国すべき人をきちんと帰国させる仕組み」も必要です。入国段階では政府間で協力しているのに、問題が起きた途端に送出国政府が協力しないという状態では制度が成立しません。その意味で、帰国協力まで覚書に含めたことには実務的な意味があります。
日本側はバングラデシュからの受入れを止められる
覚書では、相手国側が約束された措置を十分に行わず、政府間協議でも問題が解決しない場合、日本側がバングラデシュからの育成就労外国人の受入れを一時停止できる仕組みも定めています。また、特定の育成就労産業分野で受入れ人数が受入れ見込数を超える場合にも、日本側はその分野の育成就労計画認定を一時停止できます。 これは非常に重要です。つまり育成就労制度は、「一度ルートを作ったら無制限に受け入れる」という制度ではなく、問題があれば国単位・分野単位でブレーキをかけられる仕組みを持っています。ただし、本当に問題が発生した際に政府が迅速に停止判断を行うのかどうかは、制度開始後に確認する必要があります。
バングラデシュ人の受入れ上限は決まっているのか
今回の覚書では「バングラデシュ人を〇万人」という国別人数は設定されていません。育成就労制度は基本的に産業分野ごとの受入れ見込数で管理されます。例えば建設、食品製造、農業、宿泊、介護など、それぞれの分野で国内の人手不足状況を踏まえて受入れ数を管理します。その中にバングラデシュ人を含む各国の外国人が入ってくる形です。したがって、「バングラデシュとの覚書=バングラデシュ人が何十万人増える」といった理解は正確ではありません。今回決まったのは受入れの入口となる制度とルールです。
逆に「人数が決まっていないこと」をどう見るべきか
人数が決まっていないことには二つの見方があります。一つは、分野別上限があるため国別上限を設けなくても全体人数は管理できるという考え方です。もう一つは、国別人数が分からなければ、特定国からどの程度増えるのか国民から見えにくいという問題です。今後、育成就労が本格化した後には、国籍別・分野別の在留人数が定期的に公表されることが重要になるでしょう。「総枠だけ管理しているから問題ない」というだけでなく、どこの国から何人来て、どの分野で働き、何人が転籍し、何人が失踪し、何人が特定技能へ進んだのかまで公開されれば、制度をより客観的に評価できます。
技能実習制度と育成就労制度は何が違うのか
技能実習制度は、建前上「日本の技能を海外へ移転し、国際貢献すること」が主な目的でした。しかし実際には、日本の人手不足産業で重要な労働力として機能していました。育成就労制度では、この実態に合わせて「人材育成」と「人材確保」を制度目的に明記します。原則3年間働きながら技能と日本語を身につけ、その後特定技能1号へ移ることを想定しています。また、技能実習では本人希望だけによる転籍が難しかったのに対し、育成就労では一定条件を満たせば本人の希望で別の受入れ先へ転籍できるようになります。この違いは失踪問題とも関係します。「今の会社を辞めたいのに辞められない」人が失踪するのではなく、正式な転籍制度を利用できるようにする狙いがあります。
転籍可能になれば失踪は本当に減るのか
これは制度開始後に最も注目すべきポイントの一つです。転籍制度を作れば、理論上は失踪を減らせます。しかし転籍の条件が厳しすぎたり、新しい受入れ企業が見つからなかったり、本人が制度そのものを理解していなかったりすれば、失踪が続く可能性があります。また、日本国内に「正式な転籍より高い給料で働ける」と外国人を勧誘する違法な仲介業者が存在すれば、制度外へ流れる人も出てくるでしょう。そのため、送出国側の業者だけでなく、日本国内の悪質ブローカー対策も重要です。
日本側企業にも責任がある
今回の覚書はバングラデシュ側の送出機関について細かく定めていますが、問題が起きる原因を送出国だけに求めるのは適切ではありません。日本側企業の労働環境も重要です。契約どおり給与が支払われているか、残業代は支払われているか、安全な職場なのか、暴力やハラスメントがないか、住居費が高すぎないか、日本語教育を行っているかなどが影響します。来日前に借金がなくても、日本で過酷な職場環境に置かれれば失踪や転籍につながります。つまり新制度を成功させるためには、バングラデシュ側の送出機関規制と、日本側の企業管理の両方が必要です。
日本人の賃金への影響はどう考えるべきか
外国人労働者の受入れが拡大すると、必ず出てくるのが「日本人の賃金が上がりにくくなるのではないか」という議論です。本来、人手不足が深刻になれば企業は賃金を上げて人を集める必要があります。しかし海外から人材を採用しやすくなれば、賃金上昇圧力が弱まる可能性を懸念する意見があります。一方で、地方などでは賃金を上げてもそもそも働き手がいない業界もあります。人手不足で工場や介護施設、ホテルなどが事業縮小すれば、日本人従業員の雇用にも影響します。そのため、「外国人を入れるべきか、入れるべきでないか」という二択ではなく、日本人の賃金や労働条件を改善し、それでも不足する人数を外国人材で補うという考え方が重要です。
日本人と同等の労働関係法令が適用される
育成就労外国人だから、日本人より低い労働条件で働かせていいわけではありません。日本国内で働く以上、労働基準法をはじめとする労働関係法令が適用されます。今回の覚書でも、日本人労働者と同様に法律を適用することが確認されています。外国人を「安い人材」として大量に受け入れる制度にしてしまえば、外国人本人だけでなく日本人労働者の待遇にも悪影響が出る可能性があります。制度を成功させるためには、「人が足りないから外国人」という考え方だけでなく、同一労働に対する適正な賃金を確保することが必要です。
日本語教育は誰が負担するのか
育成就労では日本語能力の向上も重要な目的です。外国人本人だけに「自分で勉強してください」と任せるのではなく、受入れ企業や監理支援機関も教育を支援する必要があります。特に安全性が重要な建設、製造、介護、食品などでは、日本語が十分に理解できなければ重大事故につながる可能性があります。例えば「非常停止」「立入禁止」「異物混入」「アレルギー」「感染症」といった言葉を理解できる必要があります。制度開始後には、日本語試験の合格率だけではなく、実際の職場で意思疎通ができているかも確認する必要があります。
住宅や地域社会の問題も出てくる
外国人労働者を増やす場合、雇用だけでなく住居も必要です。会社寮を準備するのか、一般の賃貸住宅を借りるのか、家賃を誰が負担するのか、ゴミ出しなど地域ルールをどう教えるのかといった問題があります。地方では空き家を外国人従業員の寮として活用できる可能性もあります。一方、特定地域へ外国人が集中すれば、学校、日本語教育、医療、行政窓口などにも負担がかかる可能性があります。国が外国人を受け入れるなら、企業だけに任せず自治体側の受入れ体制も整える必要があります。
社会保険や税金はどうなるのか
育成就労外国人も、法律上の要件を満たせば健康保険、厚生年金、雇用保険などの社会保険制度に加入します。また、日本で所得を得れば所得税や住民税の対象になります。ここは「外国人を受け入れれば社会保障だけ利用される」という単純な構図ではありません。働いている期間は本人と企業が社会保険料を負担します。一方で、在留期間が長くなれば、医療、教育、福祉など公共サービスを利用する機会も増えます。そのため外国人政策を考える場合には、税収だけ、社会保障費だけを見るのではなく、長期的な収支を確認する必要があります。
送出国と日本の双方にメリットがある理由
バングラデシュ側にとっては、自国の労働者が日本で働き、技能を学び、所得を得られるメリットがあります。海外から母国への送金も経済的な意味を持ちます。日本側は人手不足を補うことができます。このため制度が適切に運用されれば双方にメリットがあります。しかし、外国人本人が高額な借金を背負い、日本では低賃金で働き、技能も身につかずに帰国するのであれば制度は成功とは言えません。「何人来日したか」ではなく、「本人がどれだけ技能と日本語を身につけたか」「どれだけ特定技能へ進んだか」「帰国後に技能を活用できたか」まで確認する必要があります。
問題が起きた場合の「受入れ停止」は本当に使われるのか
覚書上、日本は必要に応じて受入れを一時停止できる仕組みを持ちます。重要なのは、この権限が実際に使われるかです。例えば特定の送出機関で高額な費用徴収や虚偽書類作成が繰り返されている、失踪率が異常に高い、バングラデシュ政府が認定取消しを行わない、といった事態が起きた場合、日本側がどこまで迅速に対応するかが試されます。制度を作っても、問題が起きた後に何年も放置すれば意味がありません。そのため今後は国別・送出機関別の失踪率や違反件数を公表することも検討する価値があるでしょう。
今後チェックしたいデータ
今回の覚書を評価するうえでは、制度開始後の数字が非常に重要です。バングラデシュから育成就労で何人来日したのか、どの分野で働いているのか、送出費用はいくらだったのか、借金をして来日した人はどれくらいいるのか、転籍した人数、失踪した人数、不法残留者数、労働基準法違反、労災事故、犯罪件数、特定技能1号への移行率などです。こうした数字が公表されなければ、「制度が良くなった」「問題が増えた」という議論が印象論になってしまいます。新制度では透明性を高めることが重要です。
今回の覚書は「移民政策」なのか
政府は育成就労制度を正式には移民政策と呼んでいません。制度上は人手不足分野の人材育成・人材確保が目的です。ただし、育成就労で原則3年間働き、その後特定技能1号、さらに分野によっては特定技能2号へ進むルートがあるため、外国人が中長期的に日本で暮らす可能性は高くなります。このため政策を考える際には、単なる3年間の労働者受入れだけでなく、将来的な定住、家族、住宅、日本語教育、子どもの教育、社会保障などまで視野に入れる必要があります。「移民という言葉を使うかどうか」より、実際にどのくらい長く日本で暮らす人が増えるのかを見る方が重要でしょう。
今回の覚書で評価できる部分と、まだ分からない部分
制度上の改善点としては、認定送出機関を利用すること、保証金や違約金を規制すること、送出費用に上限を設けること、旅券取上げを防ぐこと、妊娠・出産を理由とした不利益取扱いを防ぐこと、犯罪歴に関する公的文書を取得しやすくすること、失踪・不法滞在時に政府間で協力すること、帰国用旅券の発給に協力すること、必要であれば受入れ停止できることなどが挙げられます。一方で、これらはあくまで制度上のルールです。本当に守られるかどうかは別問題です。悪質業者が別名義で活動しないか、隠れた手数料を取らないか、外国人本人が問題を相談できるのか、日本企業が適切な労働環境を提供するのか、失踪率が本当に下がるのかなどは、2027年4月以降の実績を見なければ判断できません。
まとめ|今回重要なのは「バングラデシュ人が増える」ことより、受入れルールが具体化したこと
2026年10月17日、日本とバングラデシュの間で育成就労制度に関する協力覚書が締結され、10月20日に公式公表されました。今回の覚書によって、バングラデシュ政府が認定した送出機関を基本として外国人材を送り出すこと、保証金や違約金などを規制すること、本人負担を原則として月額報酬の2か月分以下とすること、旅券取上げなどを防止すること、犯罪歴に関する公的文書取得に協力すること、失踪・不法滞在・送還に両国政府が協力することなどが決められました。
そして、問題が解決されない場合には日本側が受入れを一時停止でき、産業分野ごとの受入れ人数が見込数を超えた場合にも育成就労計画認定を一時停止できる仕組みがあります。
ただし、今回の覚書だけでバングラデシュ人の受入れ人数が決まったわけではありません。重要なのは、2027年4月以降に実際に何人が来日し、どの分野で働き、どれくらいの費用を払って来日し、どの程度技能と日本語を身につけ、何人が特定技能へ進み、何人が転籍・失踪・不法残留となったのかという実績です。
育成就労制度は、技能実習制度で指摘されてきた「高額な仲介費用」「職場を変えにくい」「失踪」「悪質な送出機関」といった問題を改善しようとして作られています。しかしルールを書いただけで問題がなくなるわけではありません。送出国政府、日本政府、送出機関、監理支援機関、受入れ企業、そして外国人本人まで、すべての段階で制度が適正に運用される必要があります。
今回の日本・バングラデシュ協力覚書は、外国人受入れ拡大という面だけでなく、「外国人を受け入れるなら、入口から出口まで政府間で管理する」という日本の今後の外国人政策の方向性を示す事例として見ると分かりやすいでしょう。
今後は「何人受け入れたか」だけではなく、「悪質業者は本当に減ったのか」「本人の借金は減ったのか」「失踪率は下がったのか」「日本人と外国人の賃金は適正か」「問題が起きたとき受入れ停止措置が実際に機能するのか」まで継続して確認する必要があります。



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